最終話

あの後、病院を出てった守屋はイケメンな外人連れて戻ってきた。
なんちゃって肉料理を持って。
守屋の料理に対する思いは、純粋に尊敬する。
いい料理人になると思う。
そんな守屋を見て先輩も思うところはあったみたいだった。

「おい、柏娘。今から己の部屋に来い」

守屋は外人に連れられて(引き摺られて)何処かへ行ってしまった。
先輩も今日はこれ以上仕事は無いようで、びっくりなお誘いが彼の口から飛び出した。

「な、なんと大胆なお誘い!あと、いい加減柏娘て呼ぶんやめて下さいよ」
「玄田の事、聞きたいんやったら黙って来い。」
「…、はい。」

そうして雲居先輩の後を縮こまるようにしてついて行く、二度目の雲居先輩の部屋。
先程の外人に何処ぞへ拉致されたから守屋は居ない。
わたしと先輩の、二人だけ。

「あはは…、なんかキンチョーしますわ、」
「よう言うわ。昨日はあんなにガツガツきよった癖に」
「…はい、すみません。」

わたし、気付いちゃったんだ。
昼間先輩の口から“玄田”という単語が出た瞬間に、大事な事に気付いてしまった。
雲居という苗字に聞き覚えがあったのもそれ。
クロさんの話で聞いていたからだった。
なんで、忘れてしまっていたのだろうか。

「…クロさんが言う、ぼっちゃんって雲居先輩の事やったんですね」
「…そうや」
「雲居先輩はいつから気付いてたんですか…」
「最初からや」

最初から…?
意味が分からず首を傾げるわたしを見た先輩は小さくため息を吐いて話し始めた。

「正確には二度目の時や。あの時お前これ持っとったやろ。」

そう言って雲居先輩は昨日のタッパーを取り出した。
中身が昨日より減っている。

「胡麻饅頭…」
「これ、玄田もよう買っていった筈や」
「じ、じゃあ…」
「…俺もよう食っとった。」

あ…、なんか前が霞む。
昨日とは違う感情。
ほんとに不器用な人だな、て…
でも、ちゃんと想いは伝わってたようで。嬉しい。
嬉しいけど…、じゃあ…
昼間の先輩の様子を思い出す。
考えたくないけど、クロさんは今…

「お前が考えとる通りや。…玄田は死んだ。」
「…、ごめんなさい。知らんで、…べらべら喋ってました。」
「いや。」
「詳しく、聞いても…?」

先輩は一度目を伏せてからゆっくり話し始めた。
事細かに、先輩が彼をどう思っていたのか
彼がわたしの話をよくしていたとか
クロさんがどのようにして雲居の敷居を出て行ったのかとか
雲居先輩の商売道具は本来は彼の物だったとか
先輩は全部、洗いざらい話してくれた。

「先輩、改めて聞いてもええですか?」
「なんや」
「料理人の本分って何やと思います?」
「今日の守屋見て、わからんくなったわ。」
「…玄田さんは雲居先輩に媚びた料理を作ってはりました?」
「…いや。そうは思わん。」
「きっとそれは“媚び”じゃなく“愛情”やったんとちゃうかなってわたし思うんです。」

先輩はただ単に、大切なものを亡くして、愛情を注いでくれる人が居なくなって、寂しかっただけなんだなって。
でも、その寂しさを認められなくて、悔しくて、ぶつける相手も居なくて、歪んだ方向へいってしまっただけだったんだなって。
その、矛先が“玄田の無念を晴らす”に向いただけだったんだなって。

「やっぱり、先輩は優しい人やったんやね…!」
「阿呆ぬかせ」
「わたし!先輩が好きになりましたっ!」
「…、阿呆やな」

不器用で無愛想な先輩やけど、優しい人。
これからはクロさんの代わりにわたしが、彼に名一杯の愛情を注げばいい。
だって、この出会いや関係はクロさんが繋いでくれたようなもんやもん。
“運命”とかってクサくてよう言わんけど、これがそうなんちゃうかなって。
脈は無いかもしれんけど、嫌われてる訳では無いっぽいからワンチャンあるよね!

「…先輩に言われた通り、もっかいみんなに関西弁で話掛けてみよかなー…」
「余計な事せんでええ」
「えー、なんで!?」
「己の前だけで十分やろ」

前言撤回。
もしかして、脈あり…?

「ああん!もう!先輩好きやわー!!」
「調子に乗るならどつき回すぞ」

相変わらず素直じゃ無い。
これから先も、苦戦しそうです。



おわり。


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