4話
本日のオムレツの課題はクリアしたのか、守屋はいそいそと片付けを始めたのでわたしもちょっと手伝った。
それにしても、守屋があの人の助手か…物凄く良いように扱われているんだろうなぁ…、なんて。
「…守屋、お願いがある。」
「え、なに…?」
「わたしもあの人の助手になりたい。」
そう言ったら守屋は何とも言えない顔をした。
青ざめているようで笑っているようで、でも何処と無く嬉しそうだけど困ってる。
色んな感情が混在したような表情。
わたし、そんな変な事言ったかな?
「難しいんじゃないかな…僕が言って、はいそうですかとはいかない人だし…」
「きっかけをくれるだけでいいの!後は自分で何とかする!」
「きっかけったって…」
そしたら、タイミングよく守屋の携帯が鳴った。
ディスプレイされたのは雲居の文字。でも守屋は電話に出ない。
わたしは不思議に思って守屋に視線を移した。
「出なくていいの…?」
「きっかけだけでいいんだよね?」
これからこいつ、死にに行くんじゃないかってくらい脂汗を額に滲ませる守屋。
わたしまで緊張してしてきてしまった。守屋の次の言葉を生唾を飲み、待つ。
「この電話に出なければきっかけは出来るよ。」
「え?それどういうー…」
どういう意味?と聞こうとして騒音に掻き消されてしまった。
騒音というのはこの実習室の扉を勢い良く開ける音の事であって、其れを勢いよく開けた人というのが件の人物。
「おい、守屋!己の電話には3コール以内に出ろて言うてるやろが!」
成る程、きっかけありがとうございます。
この実習室に現れたのは他でもないわたしが探している人だった。
守屋はあえて彼からの電話を出ないようにしたようだ。
証拠に物凄い形相で守屋を睨みつけている。さっきの脂汗はこれを予知しての事だったのかと一人で納得。
…というかこの人守屋に発信機でも付けてるの?
そんなどうでもいいこと考えてたらばっちり目が合った。
雲居先輩はわたしの顔を見るなり頭を抱えたではないか。
「またお前か柏娘。」
「柏娘じゃないです近重 優弥です。」
ビシッと人差し指を先輩に向け高らかに宣言するも
ユビ指すなと怒られましたです。はい。
「で、己の助手を引き止めるからにはそれなりの理由があるんやろな」
「わたしにもお手伝いさせていただきたく思います」
「断る。」
「なんで!?」
即答もいいところで半分食い気味に拒絶されてしまった。
いやいや、そんな事で引き下がるわたしじゃあないのだよ、甘く見て貰っちゃ困る。
「さっさとしい、守屋。仕事に遅れる。」
「え、でも…」
先輩はわたしには目もくれず、守屋に準備を促した。
守屋なんかどうすればいいものかとたじたじだ。
わたしは素早く先輩の背後に回り込む。
「………おい、柏娘。ええ加減にしとけよ。」
この実習室唯一の出入り口をとうせんぼうのポーズで塞ぐ。
その様子にかなりご立腹の様で、物凄い眼光で睨んできてちょっと怖い。
いやちょっとどころじゃない。蛇に睨まれた蛙ってこんな気持ちなのかな…とか弱気な事考えてもこんな事で引き下がるわたしじゃあありません。
何度も言うが、こんな事で引き下がるわたしじゃあないのです。
「お仕事だか何だか知らないけど、助手にするって言うまで此処を退きません。あと柏娘じゃないです。」
「………はぁ。せやったらお前もはよ準備しろや。」
「やったあああ!!ありがとうございます!!!」
盛大にガッツポーズを決めるわたしに少しホッとした様子の守屋、チラと雲居先輩を見てみるも先輩はちょっと面白そうに笑ってた。
てっきり雲居先輩は怒っているのかと思ったけど案外そうでもないみたいだった。
「で、準備って何したらええんです?」
「おい、守屋。こいつつまみ出せ。」
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