粋な計らい

「奏ちゃん、ほんと凄いや。」

先週実施された抜き打ちテストの答案用紙。
雅 奏のそれは赤マルのみしか印されていなかった。
更にこのテストで満点をとったのはこのクラスで奏ただ一人だった為、先生直々に名前を呼ばれたのだ。
故に、彼女の隣の席の小湊 春市は関心の目を奏に向けた。

「こんなの大したことないよ。」

抜き打ちにも関わらず見事に満点をとる奏はただ只管謙遜する。
そう、彼女にとってこれは大したことはない。
家に帰れば2年後習うであろう範囲の答案を埋めているのだから…
対する春市は、点数は低いとまではいかないにしても物足りない…そういった数字が用紙に書き込まれていた。

「ねぇ、良かったら僕にも勉強教えてくれないかな?」
「えっ、春市くんそんなに成績悪くないよね?必要?」
「ほら、部活の方が忙しくなるとどうしても勉強が疎かになっちゃうからさ」
「確かに…そうだね。わたしでよければ」

こうして、謀らずとも指し示したかの様に姉と妹はお互いクラスメートと勉強の約束を取り付けたのだった。






「え?こ、今度の日曜にうちで勉強会!?」

風呂上がりの楓は、髪をタオルで乾かしながら今日亮介と勉強会の約束をした事を奏に告げる。
姉から衝撃的な告白を受け、妹はたいそう狼狽えた。どのくらい狼狽えたかと言うと、予習の為に開いていたノートと手に持ったシャープペンシルを危く落としそうになるくらいは狼狽えた。
しかし、いきなりの展開ではあるものの、タイミング的にはばっちりだ。
奏も今日クラスメートと勉強の約束を取り付け、更にはそれが姉のクラスメートの弟ときた。

「急でごめんね!なんか流れで決まっちゃってさ!」
「ちょうど、今日春市くんとも勉強の約束をしたところで…」
「え?ならみんなで一緒に勉強会する?勿論、みんなが良ければになるけど」
「そうだね、明日春市くんに聞いてみる」

奏にとってこれは、嬉しいサプライズだ。
以前、姉のクラスメートに一目惚れしたと打ち明けた事がある。
その相手がまさしく亮介本人なのだ。
楓は、接点を中々見出せないままでいた奏に、その接点を与える事に成功したのだ。
しかし、内気な妹はいきなりの姉と想い人との板挟み状態に、かなりの戸惑いを覚えている。
奏的に、何クッションも挟まないと他人と仲良くなる事は難しく、そのクッションに姉と自分のクラスメートの春市を置きたいと考えている。
勿論これは、春市が了承すればの話だが。

「少しでも、亮介と仲良くなれたらいいね!」

楓は奏に明るく笑いかける。頑張れよ、と。

「ほら、あんたもお風呂入っちゃいな!」

そう言われ、奏は素直にシャープペンシルを机に置いた。






「…という事で、お兄さんと私の姉を交えて四人で勉強会しようって話になったんだけど、それでもいいかな?」
「お姉さんが良いって言ってるなら僕は問題ないよ。」
「実は姉の案なんだよね」
「あぁ、なるほどね。」

なるほど?なにがなるほどなんだろうと奏はそう思うも、春市がOKを出してくれた事ですぐに疑問は消えてしまった。
彼女は、姉と違い、人付き合いが極端に苦手だ。
そんな奏だが、春市とは比較的すぐに打ち解けた。
それは、彼が弟である事や何かと彼女と接点が多かったからだろう。
奏は直感的に、自分と似たものを彼に見出していたのかもしれない。

「じゃ、じゃあ、日曜日…よろしくね」
「こちらこそ」

しどろもどろな奏に、春市はふわりと笑って見せた。




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