初めの第一歩
「お2人とも、いらっしゃーい!!」
日曜
昼過ぎ、雅家のインターホンが鳴ってから、家の中からドタドタと音がしたと思ったら、姉の方が出迎えた。
亮介と春市は、彼女のテンションに少し気圧される。
「本当元気だよね。少し静かに出来ないの?」
が、流石の腐れ縁、亮介の方はすぐに対応するではないか。、
対する楓も対して気にした様子もない。
二人のやり取りをたじろぎながらも見守る春市には到底付いていけそうもなかった。
「は、初めまして、楓さん。今日はよろしくお願いします!」
「初めまして!春市くん!亮介から色々聞いてるよー!」
「えっ」
「こら、余計な事言わない」
「何?亮介照れてんの?」
やんややんややり取りを交わす二人を春市は不思議な気持ちで見ていた。
かつて、亮介をこんな風に揶揄う人物はいただろうか…否、彼は実は野球部の後輩からは伊佐敷よりも恐れられている。
今度、ゆっくりおにーさんの事でお茶でも飲みながら話しようね。とこっそり春市に耳打ちをする楓を、ただならぬ人物であると春市は確信した。
「さ、上がって上がって!奏は今お茶いれてるから!」
そう言われ、二人は姉妹の部屋へと通される。
二人の部屋は二階、八畳ほどの広めの部屋に二段ベッドとお互いのデスクが置いてある。
この歳でまだ同じ部屋だというのだから、本当に仲のいい姉妹なのだろう。
デスク周りを見れば、どちらがどちらの机なのか確認しなくともすぐに分かるのが面白い、と小湊兄弟は思った。
何故なら、恐らく姉の方のデスクにはビビットカラーの物が多く、妹の方は淡い色合いの物が多く置かれていたからだ。
「今、奏と飲み物持ってくるから、適当に寛いでて〜!」
そう言って、またドタドタと音を立てて階段を降りていった。
部屋には大きなふわふわのラグマットが一枚敷かれ、その上に丸いローテーブルが設置されている。
春市は女の子の部屋と言うだけでかなりソワソワしている様子だったが、亮介の方は何の躊躇いもなくラグマットに腰を下ろした。
「何突っ立ってんの?座れば?」
「あ、うん。」
他人の家、更には女の子の部屋で我が物顔が出来る兄はとてつもなく大物であると春市は、本日二度目の悟りを拓いたのだった。
「お待たせしました」
人数分のコップとむぎ茶をお盆に乗せて持ってきた奏と、袋菓子を両手いっぱいに抱えた楓がその後に続いて部屋に入ってきた。
奏がテーブルにコップを置いてむぎ茶を注ぐ。
姉は豪快に袋菓子を所謂パーティ開けをし、テーブルに並べた。
それを見て小湊兄弟は心の中で“女子会かよ”と声を揃えたのは言うまでもない。
「お待たせ!始めよっか!」
こうして、四人の勉強会は開かれたのであった。
「で?妹は何処がわかんないの?」
「えっ」
始まって真っ先に口を開いたのは、亮介。
妹を交えるに当たって、姉の楓では役不足ということで亮介が呼ばれたのだから、当然の一言である。
対する、奏の方だが、二年先の答案を埋めるほどの頭脳があるのから、現段階で不明点は皆無。
どうしようかと悩んでいたところ、慌てて姉から助け舟が寄越された。
「ほら、奏この間わかんないって言ってたじゃん?わたしじゃ全然だったから、亮介に教えてもらいなよ!」
「え、えと…じゃあ…、この教科書の18Pの…」
「あぁ、ここか…。確かにここちょっとややこしいかな。ここは…」
奏が機転を利かせ、適当な所を分からないと言って勉強会が本格的にスタートする。
もどかしい距離感の中で、クラスメートと妹が少しずつ親しくなっていく様を、姉は目を細めながら見ていた。
春市も、楓も己の教科書を取り出す。
ここからは四人とも真面目にノートに黒鉛を伸ばしていった。
「…雅」
みんなでわからない所を教え合って、黙々とノートに数字や文字を埋めている所、そろそろ楓が勉強に飽きつつある頃亮介が不意に口を開く。
唐突に呼ばれ、二名がノートから顔を上げた。そう、この場に雅と名のつくものは二人居るからだ。
「あ、違う。妹の方。」
「おっと、失敬。」
と、このようなやり取りを何度か繰り返した頃に、亮介が遂に痺れを切らす。
「あぁ、もう!ややこしいな。」
「そうは言われましても〜」
楓はもうやる気を消失し、お菓子にばかり手を伸ばしていた。
その様子を、亮介は睨みをきかせて牽制する。
「…それぞれ下の名前で呼ぶ事にする。」
「「えっ」」
「なに、二人して…、何か問題ある?」
「あ、いえ…」
「そもそも、春市は初めから二人の事下の名前で呼んでるじゃん。」
「こういう風にややこしくなるかなって思って」
少し不服そうに口先を尖らせる亮介に、苦笑いを返す奏と春市。
「でさ、奏。さっきの話なんだけど」
「あ、は、はい…」
呼ばれ慣れない声で名前を呼ばれ、奏の頬はみるみるうちに赤くなる。
その様子をニヤニヤ顔で眺める楓は、音には出さず「よかったね」と口パクで奏に伝えた。
「二人とも、今日はありがとね!」
勉強会も夕刻まで捗った。
長居も申し訳ないと言うことで小湊兄弟は、そろそろお暇しようかという事になり、姉妹が玄関先まで亮介と春市を見送る。
帰り支度をする二人の背中に向かって、楓が声を掛けた。
靴を履き終えた春市が振り返って申し訳なさそうに言う。
「いや、僕はほとんど教えて貰っていただけだったので…」
「ううん。人に教えるのもいい勉強になるから、気にしなくて大丈夫だよ。」
「誰より足引っ張ってたの楓だしね?」
「あ、いえ!そんなつもりは…!」
「だってさ、優しい妹で良かったね」
「亮介は明日学校で会ったら覚えてろよー!」
楓が、悪役の下っ端の決まり台詞を高らかにぶつけた所で、この日はお開きになった。
日曜
昼過ぎ、雅家のインターホンが鳴ってから、家の中からドタドタと音がしたと思ったら、姉の方が出迎えた。
亮介と春市は、彼女のテンションに少し気圧される。
「本当元気だよね。少し静かに出来ないの?」
が、流石の腐れ縁、亮介の方はすぐに対応するではないか。、
対する楓も対して気にした様子もない。
二人のやり取りをたじろぎながらも見守る春市には到底付いていけそうもなかった。
「は、初めまして、楓さん。今日はよろしくお願いします!」
「初めまして!春市くん!亮介から色々聞いてるよー!」
「えっ」
「こら、余計な事言わない」
「何?亮介照れてんの?」
やんややんややり取りを交わす二人を春市は不思議な気持ちで見ていた。
かつて、亮介をこんな風に揶揄う人物はいただろうか…否、彼は実は野球部の後輩からは伊佐敷よりも恐れられている。
今度、ゆっくりおにーさんの事でお茶でも飲みながら話しようね。とこっそり春市に耳打ちをする楓を、ただならぬ人物であると春市は確信した。
「さ、上がって上がって!奏は今お茶いれてるから!」
そう言われ、二人は姉妹の部屋へと通される。
二人の部屋は二階、八畳ほどの広めの部屋に二段ベッドとお互いのデスクが置いてある。
この歳でまだ同じ部屋だというのだから、本当に仲のいい姉妹なのだろう。
デスク周りを見れば、どちらがどちらの机なのか確認しなくともすぐに分かるのが面白い、と小湊兄弟は思った。
何故なら、恐らく姉の方のデスクにはビビットカラーの物が多く、妹の方は淡い色合いの物が多く置かれていたからだ。
「今、奏と飲み物持ってくるから、適当に寛いでて〜!」
そう言って、またドタドタと音を立てて階段を降りていった。
部屋には大きなふわふわのラグマットが一枚敷かれ、その上に丸いローテーブルが設置されている。
春市は女の子の部屋と言うだけでかなりソワソワしている様子だったが、亮介の方は何の躊躇いもなくラグマットに腰を下ろした。
「何突っ立ってんの?座れば?」
「あ、うん。」
他人の家、更には女の子の部屋で我が物顔が出来る兄はとてつもなく大物であると春市は、本日二度目の悟りを拓いたのだった。
「お待たせしました」
人数分のコップとむぎ茶をお盆に乗せて持ってきた奏と、袋菓子を両手いっぱいに抱えた楓がその後に続いて部屋に入ってきた。
奏がテーブルにコップを置いてむぎ茶を注ぐ。
姉は豪快に袋菓子を所謂パーティ開けをし、テーブルに並べた。
それを見て小湊兄弟は心の中で“女子会かよ”と声を揃えたのは言うまでもない。
「お待たせ!始めよっか!」
こうして、四人の勉強会は開かれたのであった。
「で?妹は何処がわかんないの?」
「えっ」
始まって真っ先に口を開いたのは、亮介。
妹を交えるに当たって、姉の楓では役不足ということで亮介が呼ばれたのだから、当然の一言である。
対する、奏の方だが、二年先の答案を埋めるほどの頭脳があるのから、現段階で不明点は皆無。
どうしようかと悩んでいたところ、慌てて姉から助け舟が寄越された。
「ほら、奏この間わかんないって言ってたじゃん?わたしじゃ全然だったから、亮介に教えてもらいなよ!」
「え、えと…じゃあ…、この教科書の18Pの…」
「あぁ、ここか…。確かにここちょっとややこしいかな。ここは…」
奏が機転を利かせ、適当な所を分からないと言って勉強会が本格的にスタートする。
もどかしい距離感の中で、クラスメートと妹が少しずつ親しくなっていく様を、姉は目を細めながら見ていた。
春市も、楓も己の教科書を取り出す。
ここからは四人とも真面目にノートに黒鉛を伸ばしていった。
「…雅」
みんなでわからない所を教え合って、黙々とノートに数字や文字を埋めている所、そろそろ楓が勉強に飽きつつある頃亮介が不意に口を開く。
唐突に呼ばれ、二名がノートから顔を上げた。そう、この場に雅と名のつくものは二人居るからだ。
「あ、違う。妹の方。」
「おっと、失敬。」
と、このようなやり取りを何度か繰り返した頃に、亮介が遂に痺れを切らす。
「あぁ、もう!ややこしいな。」
「そうは言われましても〜」
楓はもうやる気を消失し、お菓子にばかり手を伸ばしていた。
その様子を、亮介は睨みをきかせて牽制する。
「…それぞれ下の名前で呼ぶ事にする。」
「「えっ」」
「なに、二人して…、何か問題ある?」
「あ、いえ…」
「そもそも、春市は初めから二人の事下の名前で呼んでるじゃん。」
「こういう風にややこしくなるかなって思って」
少し不服そうに口先を尖らせる亮介に、苦笑いを返す奏と春市。
「でさ、奏。さっきの話なんだけど」
「あ、は、はい…」
呼ばれ慣れない声で名前を呼ばれ、奏の頬はみるみるうちに赤くなる。
その様子をニヤニヤ顔で眺める楓は、音には出さず「よかったね」と口パクで奏に伝えた。
「二人とも、今日はありがとね!」
勉強会も夕刻まで捗った。
長居も申し訳ないと言うことで小湊兄弟は、そろそろお暇しようかという事になり、姉妹が玄関先まで亮介と春市を見送る。
帰り支度をする二人の背中に向かって、楓が声を掛けた。
靴を履き終えた春市が振り返って申し訳なさそうに言う。
「いや、僕はほとんど教えて貰っていただけだったので…」
「ううん。人に教えるのもいい勉強になるから、気にしなくて大丈夫だよ。」
「誰より足引っ張ってたの楓だしね?」
「あ、いえ!そんなつもりは…!」
「だってさ、優しい妹で良かったね」
「亮介は明日学校で会ったら覚えてろよー!」
楓が、悪役の下っ端の決まり台詞を高らかにぶつけた所で、この日はお開きになった。