由々しき事態
「雅ちゃ〜ん、実力テストの結果はどうでしたかぁ〜?」
HR前、奏が自分の席に鞄を置いて着席した瞬間、このクラスのカースト上位に君臨しているような、如何にもギャルといった容姿のクラスメートが数名で彼女の座る机を囲んで声を掛ける。
何度も色を抜いて少しパサついた髪を、緩く纏めた髪。決して薄いとは言えない化粧。
これでもかと言う程折られて短くされたスカート。お世辞にも素行がいいとは言えないその女子達は、過去度々奏に絡んでいた。今日も例外ではない。
「大した点数じゃないよ」
「何それ嫌味?アンタ、学年成績掲示板に貼り出されてたけど、二位だったじゃん」
先日の勉強会の成果が出たのか、はたまた実力か…、彼女は確かに成績を残していた。
それを知って敢えて絡みに来るこのギャルの手口は、もはや奏には分かりきった事だったのだ。
「アンタさぁ?ちょっと図に乗りすぎじゃない?何でも三年の範囲まで勉強してるらしいじゃん?」
「お姉ちゃんに教えてるんだって?」
「成績良いからって調子こいてんじゃねーっつーの。」
一体どこから仕入れてきた情報なのか…こういう類の女子のネットワークは本当に侮れない。
かわるがわる罵声を浴びせられるこの状況で奏は、耳を塞ぎたくなるのをグッと堪えた。
鞄から、一時限目の教科書を取り出し、残りの教科書を机の中に仕舞う。
それを見たギャルたちがまた口を開いた。
「シカト?アンタ、ほんとムカつくわ」
「ちょっとお前、今日放課後体育館裏来いな。」
「え…」
「逃げんじゃねーぞ」
「………。」
そうとだけ奏に耳打ちしたギャルたちはまた別の女子の輪に戻っていった。
奏は一人苦悶する。この事を誰かに相談するべきなのか否かを…
彼女にとって頼れる存在は、姉の楓くらいしか存在しない。…その事実もまた、彼女を苦しめる要素の一つになっていた。
「ん?春っち、どーした?」
「え?」
「いや、ボーっとよそ見なんかしてさー」
奏の席から少し離れた場所で、別のクラスから度々春市に絡みに来る沢村と談笑をしていた春市だったが、先程のやり取りを凝視していた所を沢村に指摘されてしまう。
春市は、あー、今日の夕食何かなって考えてた、などと適当に返すも、少し頭の足りない沢村は真に受けて気にする様子も無かった。
そして、春市はある一つの決心をする。
昼休み、春市は三年の校舎に足を運んだ。
彼の足は、3-Bの前で止まる。勝手知らぬ校舎の教室でどうするべきかとウロウロしていると、その閉じられた教室の扉がガラリと開かれた。
「春市。こんなとこで何やってんの?」
正にジャストなタイミングで開かれた教室の扉。
更に、それを開けたのは、他でもない良く知る自分の兄だった。
助かった…と、春市はホッと胸をなで下ろす。
何せ、上級生の教室を下級生が開けるというのはなかなかに勇気のいる行為だったからだ。
「ちょうど良かった、兄貴」
「わざわざこっちまで来るなんて珍しいな。何?」
「ちょっと、楓さんに用事があって…、呼んでもらってもいいかな…?」
「楓に…?」
怪訝そうに眉を顰める亮介は、少しだけ考えてから教室の中に向かって声を掛ける。
「楓ー。春市が呼んでる。」
教室の端の席に座っていた楓は、驚いた様に目を瞠った。
そして、亮介の小脇に立つ春市を視界に入れ、慌てて机に手を付いて立ち上がる。
「春市くん!?どーしたの!?」
パタパタと、少し小走りめに近寄る楓に、慌てさせて申し訳ない気持ちになる春市。
亮介は、それを確認すると気を使ってかそのまま廊下を歩いていった。
入口付近で立ち話をするのも、他の生徒の邪魔になるので、二人は窓際に寄る。
「あの…、ちょっとお耳に入れたい事が…」
深刻そうな春市の声色に、ただ事でない事を察する。
「どうしたの…?」
そして、春市の口から出てきた言葉に楓は、驚愕する事になる。
時刻は、放課後。
奏は、律儀にも指定された時間に体育館裏に来ていた。
人通りは皆無に近いその場所に呼び出される事の意味を、奏は理解していた。
「雅ちゃ〜ん、ちゃんと来たんだねぇえらいえらい」
そこには、朝教室で絡んできたギャル達がご丁寧に数人拵えて立っている。
腕組みをしながらと、とても威圧的だった。
「それで…、わたしに何か、用…?」
奏は、努めて平常を装う。
「ハァ?何その態度。あんたうちらのこと格下だと思ってバカにしてるんでしょ?」
「そんな事は…」
「勉強ができればセンセーから褒めてもらえるもんねぇ?」
「人のこと見下して、それで優等生気取ってんじゃねぇっつーの。」
「仕方ないよ〜。勉強しか取り柄ないもんね〜」
「………。」
それもそっかー!キャハハ!と下品に笑い合う彼女らに奏は、心底嫌気がさした。
制服の裾を握って耐えていた奏だったが、ギャルの一人が彼女の地雷を踏んでしまう。
「つーかさぁ、姉も姉だよねぇ。二つ学年下の妹に勉強教えてもらってるとかさぁ」
「姉妹揃って一人じゃ何も出来ないんだねぇ、かわいそ」
この一言二言が、奏の逆鱗に触れてしまった。
「お姉ちゃんは…関係ない。それに、勉強出来ないのはあなた達が真面目に授業を受けてないからでしょう」
今まで黙りを決め込んできた奏だったが、耐えられず口答えをする形になってしまう。
その事がギャルは大層癪に触った様で、その内の一人が奏の前まで無言で来るとそのまま見事な平手打ちを決めた。
衝撃で蹌踉めいて、尻餅を着く奏。
「アンタ、マジで調子乗ってんなよ…」
冷めた目で見下ろすギャルに対し、負けじとキッと睨む奏。
その事に更に腹を立てたギャルは、足で奏を蹴り上げた。
地面を転がる奏。
そして、奏に畳み掛けるように他のギャルたちが群がろうとしたその時。
奏に群がろうとしていたギャルの一人が吹っ飛ぶ。
何事かとその場に居たものは、辺りに集中。
「アンタら、わたしの妹に何してんだっ!!!」
吹っ飛んだ理由は、駆け付けた楓が飛び蹴りを食らわした為だった。
思わぬ人物の登場に奏を含むその場の全員が驚く。
「アンタこそ、手を挙げていいのかよ。」
「どの道先に手を出したのそっちでしょ。」
知ったこっちゃないと言った様子の楓に、ギャル達はマンガの悪役の様な捨て台詞を残して足早に去っていった。
「奏、立てる…?」
すぐさま奏に駆け寄り手を差し出す楓だが、奏はその手を取らなかった。
自分自身の力で立ち上がり、スカートに付いた砂を払う。
そして、一言。
「お姉ちゃん、余計な事しないで…」
HR前、奏が自分の席に鞄を置いて着席した瞬間、このクラスのカースト上位に君臨しているような、如何にもギャルといった容姿のクラスメートが数名で彼女の座る机を囲んで声を掛ける。
何度も色を抜いて少しパサついた髪を、緩く纏めた髪。決して薄いとは言えない化粧。
これでもかと言う程折られて短くされたスカート。お世辞にも素行がいいとは言えないその女子達は、過去度々奏に絡んでいた。今日も例外ではない。
「大した点数じゃないよ」
「何それ嫌味?アンタ、学年成績掲示板に貼り出されてたけど、二位だったじゃん」
先日の勉強会の成果が出たのか、はたまた実力か…、彼女は確かに成績を残していた。
それを知って敢えて絡みに来るこのギャルの手口は、もはや奏には分かりきった事だったのだ。
「アンタさぁ?ちょっと図に乗りすぎじゃない?何でも三年の範囲まで勉強してるらしいじゃん?」
「お姉ちゃんに教えてるんだって?」
「成績良いからって調子こいてんじゃねーっつーの。」
一体どこから仕入れてきた情報なのか…こういう類の女子のネットワークは本当に侮れない。
かわるがわる罵声を浴びせられるこの状況で奏は、耳を塞ぎたくなるのをグッと堪えた。
鞄から、一時限目の教科書を取り出し、残りの教科書を机の中に仕舞う。
それを見たギャルたちがまた口を開いた。
「シカト?アンタ、ほんとムカつくわ」
「ちょっとお前、今日放課後体育館裏来いな。」
「え…」
「逃げんじゃねーぞ」
「………。」
そうとだけ奏に耳打ちしたギャルたちはまた別の女子の輪に戻っていった。
奏は一人苦悶する。この事を誰かに相談するべきなのか否かを…
彼女にとって頼れる存在は、姉の楓くらいしか存在しない。…その事実もまた、彼女を苦しめる要素の一つになっていた。
「ん?春っち、どーした?」
「え?」
「いや、ボーっとよそ見なんかしてさー」
奏の席から少し離れた場所で、別のクラスから度々春市に絡みに来る沢村と談笑をしていた春市だったが、先程のやり取りを凝視していた所を沢村に指摘されてしまう。
春市は、あー、今日の夕食何かなって考えてた、などと適当に返すも、少し頭の足りない沢村は真に受けて気にする様子も無かった。
そして、春市はある一つの決心をする。
昼休み、春市は三年の校舎に足を運んだ。
彼の足は、3-Bの前で止まる。勝手知らぬ校舎の教室でどうするべきかとウロウロしていると、その閉じられた教室の扉がガラリと開かれた。
「春市。こんなとこで何やってんの?」
正にジャストなタイミングで開かれた教室の扉。
更に、それを開けたのは、他でもない良く知る自分の兄だった。
助かった…と、春市はホッと胸をなで下ろす。
何せ、上級生の教室を下級生が開けるというのはなかなかに勇気のいる行為だったからだ。
「ちょうど良かった、兄貴」
「わざわざこっちまで来るなんて珍しいな。何?」
「ちょっと、楓さんに用事があって…、呼んでもらってもいいかな…?」
「楓に…?」
怪訝そうに眉を顰める亮介は、少しだけ考えてから教室の中に向かって声を掛ける。
「楓ー。春市が呼んでる。」
教室の端の席に座っていた楓は、驚いた様に目を瞠った。
そして、亮介の小脇に立つ春市を視界に入れ、慌てて机に手を付いて立ち上がる。
「春市くん!?どーしたの!?」
パタパタと、少し小走りめに近寄る楓に、慌てさせて申し訳ない気持ちになる春市。
亮介は、それを確認すると気を使ってかそのまま廊下を歩いていった。
入口付近で立ち話をするのも、他の生徒の邪魔になるので、二人は窓際に寄る。
「あの…、ちょっとお耳に入れたい事が…」
深刻そうな春市の声色に、ただ事でない事を察する。
「どうしたの…?」
そして、春市の口から出てきた言葉に楓は、驚愕する事になる。
時刻は、放課後。
奏は、律儀にも指定された時間に体育館裏に来ていた。
人通りは皆無に近いその場所に呼び出される事の意味を、奏は理解していた。
「雅ちゃ〜ん、ちゃんと来たんだねぇえらいえらい」
そこには、朝教室で絡んできたギャル達がご丁寧に数人拵えて立っている。
腕組みをしながらと、とても威圧的だった。
「それで…、わたしに何か、用…?」
奏は、努めて平常を装う。
「ハァ?何その態度。あんたうちらのこと格下だと思ってバカにしてるんでしょ?」
「そんな事は…」
「勉強ができればセンセーから褒めてもらえるもんねぇ?」
「人のこと見下して、それで優等生気取ってんじゃねぇっつーの。」
「仕方ないよ〜。勉強しか取り柄ないもんね〜」
「………。」
それもそっかー!キャハハ!と下品に笑い合う彼女らに奏は、心底嫌気がさした。
制服の裾を握って耐えていた奏だったが、ギャルの一人が彼女の地雷を踏んでしまう。
「つーかさぁ、姉も姉だよねぇ。二つ学年下の妹に勉強教えてもらってるとかさぁ」
「姉妹揃って一人じゃ何も出来ないんだねぇ、かわいそ」
この一言二言が、奏の逆鱗に触れてしまった。
「お姉ちゃんは…関係ない。それに、勉強出来ないのはあなた達が真面目に授業を受けてないからでしょう」
今まで黙りを決め込んできた奏だったが、耐えられず口答えをする形になってしまう。
その事がギャルは大層癪に触った様で、その内の一人が奏の前まで無言で来るとそのまま見事な平手打ちを決めた。
衝撃で蹌踉めいて、尻餅を着く奏。
「アンタ、マジで調子乗ってんなよ…」
冷めた目で見下ろすギャルに対し、負けじとキッと睨む奏。
その事に更に腹を立てたギャルは、足で奏を蹴り上げた。
地面を転がる奏。
そして、奏に畳み掛けるように他のギャルたちが群がろうとしたその時。
奏に群がろうとしていたギャルの一人が吹っ飛ぶ。
何事かとその場に居たものは、辺りに集中。
「アンタら、わたしの妹に何してんだっ!!!」
吹っ飛んだ理由は、駆け付けた楓が飛び蹴りを食らわした為だった。
思わぬ人物の登場に奏を含むその場の全員が驚く。
「アンタこそ、手を挙げていいのかよ。」
「どの道先に手を出したのそっちでしょ。」
知ったこっちゃないと言った様子の楓に、ギャル達はマンガの悪役の様な捨て台詞を残して足早に去っていった。
「奏、立てる…?」
すぐさま奏に駆け寄り手を差し出す楓だが、奏はその手を取らなかった。
自分自身の力で立ち上がり、スカートに付いた砂を払う。
そして、一言。
「お姉ちゃん、余計な事しないで…」