すれ違いは延長線

「妹と何かあった?」

あのやり取りから、楓と奏に距離ができてしまった。
朝一緒に登校していた二人は影を潜めてしまったし、同じ部屋にいても会話など一つも無い。
最初は楓も積極的に話し掛けていたものの、なかなか弾まない会話と気まずさからなかなか話し掛けられない日々が続いた。
あれだけ一緒にいた姉妹が最近ではバラバラに登下校をしているのだから、それは亮介の目から見ても不自然な事でもある。

「え?何で?」

あっけらかんと答える楓に違和感を感じる亮介は、眉間に皺を寄せた。
亮介の目には、無理して普段通りに振舞っている様にしか見えなかったのだ。
何にもないよー!と元気に声を上げながら自分の席に鞄から出した教科書を詰め込む楓。
楓はいつもこうだ。
悩み事があったとしても、それを表には出したがらない。
二年と少しの付き合いではあるが、亮介も彼女の性格は重々承知の上だった。
が、妹と何か拗れてしまったのであるならば、普段妹バカな楓の事だから相当悩んでるのではないかと亮介は心配している。
が、本人が口を割ろうとしない以上深く追究することも出来ず、彼の眉間の皺は深まるばかりだった。

「どうしようもなくなったら言えよ。」

普段辛口の亮介だが、人一倍情に厚い。
憎まれ口を叩き合う仲ではあるが、放っておく事が出来ないでいた。
また、そんな彼の言葉に苦笑いを零すだけの楓である。

「そうだね…、どうしようもなくなったら、言うよ。」

その一言を聞いたきり、亮介は何も言わなくなった。
少しばかり気まずい空気が流れ出す。
その事に耐えられなくなった楓は、話題を変えた。

「いよいよ地区大会始まるね!キツゥ〜イ合宿も練習試合も終えた所で意気込みをどうぞ!」

手でマイクを握るように握り拳を作って亮介に差し出す。
その様子に、亮介はフッと笑って言うのだ。

「今年は、絶対甲子園に行く。」

その一言に、楓は満足そうに笑った






「俺達は誰だー…」
「「「王者 青道!!」」」
「誰よりも汗を流したのは」
「「「青道!!」」」
「誰よりも涙を流したのは」
「「「青道!!」」」
「誰よりも野球を愛しているのは」
「「「青道!!」」」

今日、漸く背番号が発表された。
明日から、青道高校野球部の“夏”が始まる。
三年生にとっては青道で送る最後の夏だ。
部員達は己を鼓舞するように円陣を組み、キャプテンのコールに部員達はレスポンスを返す。
部員に交じり、マネージャー陣も円には交わらなくともコール&レスポンスに参加した。

「戦う準備はできているか!?」
「「「おおお」」」

部員のレスポンスは最早雄叫びだ。
それ程気合が入っているし、この夏に懸ける想いは底知れない。
彼らが狙うは全国制覇のみ。

「いくぞぉ!!」
「「「おおおおおおお」」」

明日から、地区大会が始まる。
野球部マネージャーもそれなりに忙しくなる。
そうなる事により、楓は忙しいからと自分に言い訳をして奏との距離を置ける事に少々安堵していた。

(落ち着いてから…ちゃんと話をしよう…)

そう言い聞かせて先延ばしにする。






「ただいまー…」

先延ばしにすると言っても、結局家に帰れば顔を突き合わせる事にはなる訳で。
何より、姉妹同じ部屋で生活している為に避けようがない。
しかし、必ず同じ時間に食事を摂っていた二人だったが、時間をずらす様になっていた。
奏は、楓が家に帰り着くよりも早く夕飯を済ませているし、楓が夕飯を摂る頃には風呂に入る。
しかし、今日は疲れていたのか楓は帰るなり自室のベッドへと倒れ込んだ。

(あー…、お風呂…あ、でも今奏が入ってる頃か…、明日朝…シャワー浴びよう…)

睡魔に勝てず重い瞼は閉じられた。
程なくして穏やかな寝息が楓から発せれる。
暫くして風呂から上がった奏が、タオルで髪を拭きながら部屋へと戻った。
視界の端に足をベッドから投げ出す楓を捉え苦笑いを零す。

「制服…、皺になっちゃうよ」

手が掛かる姉だな…なんて小言を零す妹の事を、楓は知る由もない。






「ハッ!?…寝ちゃってた!?」

楓が飛び起きたのは、明け方頃。
夕飯すら腹に入れていなかった為、空腹で目が覚めてしまった。
時計の針を確認して慌てて口を手で塞ぐ。
何故ならこの時間であるならば、二段ベッドの上ではまだ奏が眠っているからだ。
そして昨晩、制服から着替えずにベッドに倒れ込んだ事を思い出して首を傾げた。

「あれ…パジャマ着てる…」

着ていたはずの制服は綺麗にハンガーに掛けられ、それは壁にぶら下がっている。
もしかしなくても奏が手を焼いてくれた様だ。
楓は、シャワーを浴びる為にベッドから立ち上がり、丸いローテーブルに奏へ書置きを残して部屋を出た。




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