月島蛍は予想外




4月。
私は無事に烏野高校に入学した。

まだ翔陽くんのことは見ていないけど、きっと来ているはずだ。仮入部期間だけど体育館覗きに行ったら、いるかな?


外を見ようと窓に目を向けると、隣の席の男の子が目に映る。そういや、すごく背が高かったような…バレー部、入ったりしないかな。



「ねえね、月島くんて下の名前なんて読むの?」

「けい、だけど」

「へえ、ほたるって書いてけいって読むんだ…良いね」

「…なにが?」

「む、素敵だねってこと!蛍くんって呼んでもいい?」

「……」

「あ、あのね、月島くんが嫌だったら良いんだけど、私が名字で呼ばれるの好きじゃなくて……あ、え、と…ごめんなさい」



正直なところ、月島蛍は困惑していた。

自分は、なぜ話しかけられているのか、なぜ下の名前で呼ばれているのか、なぜ謝られているのか。

話しかけにくいと認識されがちな自分に、入学式が終わってすぐに話しかけて来る様な女子なんてコミュ力お化けなのかコイツは、と思うと同時に、あの、勝利の天使に話しかけられている、と言う焦りで顔には出ないが頭の中は大混乱していた。



「別に、好きに呼べば良いんじゃない」

「んっ、うん!じゃあ…蛍くんは、何の部活入るの?」

「バレー……、!」



なに…なんで、そんな、嬉しそうな顔するの。

僕がバレー部に入ることで、君に何か得でもあるの。意味がわからない。だって昨日今日会ったばかりなのに。



「楽しみだなぁ」

「…マネージャーでもやるの?」

「えー、そんな烏滸がましいことできないよ」

「?」

「応援しにいくね、試合」

「あっハイ!俺もツッキーと一緒にバレー部入るんだ!」



ぴょこん、と話に入って来た山口に、呆れと怒りが入り交じる。



「えっと…山口忠くん!」

「うん!神崎さんは…」

「みすずって呼んでほしいです!」

「い、良いの?じゃあみすずちゃん、はどこ中出身なの?」

「北川第一だよ」

「えっ…ツッキーやっぱり」

「うるさい山口」

「…?」

「気にしないで」



不思議そうな顔をしながらも、他のクラスメイトに呼ばれてそっちの輪に入って行った。


一方的に知っているなど言えるわけが無い。
ましてやずっと選手だったわけでもないのに、あなたのこと知ってます、なんて気持ち悪いだけだ。

それにしても、てっきりマネージャー希望なのだと思っていた。いやそもそも、何で烏野にいるんだ?昔は強かったけど、今は到底、強豪とは呼べないレベルなのに。コート上の王様を追っかけて来たとか?ああ、有り得る。だけど、どっちかと言うとあの及川徹のファンだった様な。



「ツッキー!」

「…なに?」

「みすずちゃんに穴空いちゃうよ」

「……」

「でも同じ高校なんてラッキーだね!」



山口の言葉に不服そうな月島蛍は、なにを隠そう神崎みすずの選手時代のファンだった。


先程話した感じだと本人は覚えていないようだが、小学生時代に月島と山口が所属していた少年団チームとみすずが入っていたチームが1度だけ試合をしたことがあった。

その時、みすずのプレーに一目置いた月島は、中学に上がってからもわざわざ北川第一の女バレの試合を観戦するくらいには、いわゆる「隠れファン」を続けていたのだが、彼女はあっけなく選手生命に終止符を打ち、気付けば男子バレーボールの追っかけみたいになっていた。


みすずのプレーのファンである月島としては、もう一度、選手としてコートに立って欲しいと思っている。

でも、彼女が試合を観戦する時の姿を見たら、そんなこと簡単に言えるもんじゃないと月島は思っていた。なぜなら月島が惚れたコート上にいるみすずよりも、観客席で一喜一憂しているみすずの方が格段魅力的に見えたからだ。



「でもなんで烏野?しかも、なんでマネージャーやらないんだろ?」

「さあね」



でも、試合は観に来てくれると、応援しに来てくれると言っていた。だから、柄にもなく早く部活に参加したい、と少しだけ思った。




月島蛍は予想外


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