菅原孝支は呼び止める





部活が終わった後、先に帰った神崎みすずさんと話がしたくて、片付けを早めに切り上げて後を追いかけた。

伊達工業との試合の後あんな風に声をかけてくれた女の子と、こんな風に再会出来るなんて思ってもみなかったから、なんていうか、運命なのかもって思っちゃったんだ。



「神崎さーん!」

「…?」



坂道を下る背中がくるりと振り返った。


勝利の天使。

西谷から聞いた話によると、彼女が観戦しているチームは必ず勝利すると言われているから、そんなあだ名が付いたらしい。なんで女神じゃないのか聞いたら、見た目がフワフワしてるから、となんともフワフワした回答が返って来たのを覚えてる。

まあ、確かに、かわいいな。



「ど、どうしたんですか?」

「あー…ほら、遅くなったし送ろうかなって」

「えっ だ、大丈夫ですよ!気にしないでください!足は速いので何かあっても逃げられますし、今まで何かあったこともないですし先輩の手?いや足?を煩わせるわけには…」

「うん、ごめん、俺が神崎さんと話したかっただけ」

「気を使わせてすみません…、」

「使ってない!本心!」



なんていうか、つくづく気にしいと言うか。

マネージャーやらないのもファンだからって言ってたけど、普通ファンならマネージャーやりたいもんなんじゃないんだろうか。



「今日どうだったー?」

「楽しかったです…!やっぱり男バレ格好良いです!先輩のトスは、安定していて打ちやすそうと言うか優しい感じがして、人柄がプレーにもトスにも出てるなって思いました」

「えっ…な、なんか聞いといてあれだけど、恥ずかしいな」

「ふふ、早く試合が見たいですね」



かわいい。きゅんとした。なんだこれ。
はは、うん、天使だな、これは。



「あの…西谷夕さんと、東峰旭さんは……」

「あーうん…あの後ちょっと色々あって、西谷は部活禁止中。旭は……来てないんだ、部活。」

「…そうですか」



あの試合を観てたなら、旭がいない理由はなんとなく察しがつくだろう。

っていうか、西谷と旭のことはあの時にもう知ってたんだなぁ。やっぱ中学の時から有名だったんだな、あの2人。


と、少し暗くなっちゃったところで、本題に入ろうか。



「ねえ、なんでマネージャーやりたくないの?」

「やりたくないわけでは、ないですよ」

「じゃあ」

「……私は烏野のファンである前に男子バレーボールが好きです。なので例えば烏野にとって大事な試合であっても、他の試合を観たくなってしまったらそっちを優先したいですし、もっと言えば他の学校を応援したくなるかも知れません」



勝利の天使、きっとそれは、強い選手や強いチームが好きだからこそ付いたんだろうと思う。


でも俺たちは、あの日、勝てなかった。


進学先だからと観戦してくれただけかも知れない。でも少なからず期待を裏切ってしまった、はずだ。それなのに、応援していると言ってくれたんだ。この先の勝利を諦めないで、期待していると伝えてくれた。



「じゃあ俺たちが、ずっと観ていたいと思えるチームになればマネージャー、やってくれる?」

「あ…えっと、あの、その…」



ちょっと意地悪な言い方しちゃったかな。
慌てっぷりについ笑ってしまって、神崎さんがむすっとしている。



「まーとりあえず、そのためにはあの問題児2人をどうにかしなきゃいけないんだけどね」

「なんか、飛雄くんがすみません」

「あ、神崎さんも北一なんだっけ?もしかして影山追っかけて烏野来たの?」

「いえ…どちらかというと、もう1人の問題児ですね」

「え…日向を?なんで」

「北一と雪ヶ丘の試合を観た時に、翔陽くんの成長を近くで見てみたくなってしまって」

「へえ!そっかぁ…実は俺たちもその試合、観てたんだよね。あの時の日向すごかったよなぁ」

「…わたし翔陽くんなら、飛雄くんのこと変えてくれるかも知れないってその時思ったんです。そしたら2人が同じ高校に通うことになってそういう巡り合わせってあるんだなあって」



きらきらと瞳を輝かせながら話す姿に、ああ、羨ましいなと純粋に思ってしまう。

日向と影山。
根拠は無いけどあの2人なら何かを起こしそうだと思う気持ちは凄くわかる。だからこそ練習に付き合っている訳だけど。



「土曜も、観に来なよ」

「いいんですか…?」

「うん、ていうか…観るべきだと思う。俺、早朝練とか昼休みに日向のレシーブ練付き合ったりしてるんだけど……日向はすごいよ」



悔しいけど、それでも、少しでも君に映して欲しいから。




菅原孝支は呼び止める


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