音駒主将の思惑






いよいよGW合宿最終日。
音駒高校と練習試合をする体育館にやって来た。いつもと違う場所ってやっぱりちょっと、そわそわする。



「みすずちゃん、荷物大丈夫そう?」

「あ、潔子センパイ先行っちゃって大丈夫です!」

「うん、わかった」



先に準備を済ませたらしい潔子センパイを見送って、最終チェックをしてからバスを降りる。

そう言えば前回の青城との練習試合の時はバタバタしてたなあ。今日はなんて平和なんだろう。翔陽くんが緊張してなくて何よりだ。



「あ、えーっと…神崎みすずサン?」



さあ行こう、と立ち上がったら真っ赤なジャージの人に声をかけられた。

特徴的な髪型、あ、研磨くん迎えに来てた人だ。確か、クロさん?だったような。たぶん、私の名前は研磨くんから聞いたんだろう。



「そうです、本日は練習試合ありがとうございます。よろしくお願い致します!」

「イエイエ、こちらこそよろしくお願いします」



何しに来たんだろう。
向こうで両校が話してるの見えたんだけど…忘れ物でも取りに来たのかな?



「実は折り入ってお願いがありまして」

「? はい」

「さっきもう1人マネージャーいるの見かけたからさ、今日だけウチのマネージャーやってくんない?」

「え」



で、デジャヴ…。

いやでもこの前はお世話になっていた恩もあったしな、あーでも、練習試合を引き受けてくださってわざわざ東京から遠征されてるわけで。お手伝いする理由はいっぱいある、なあ。



「せ、先生に許可を取らないと」

「あ、もう取ってある」

「(武田センセー!!!)」

「ってことで引き受けてくれる?」

「はい、だって…もうそう言う手はずですよね」

「まーね。じゃあ、よろしくみすずチャン」



さあ行こ行こ、と両肩をぐいぐい押され体育館の方へ連れて行かれる。

なんか、馴れ馴れしいなあ。名前も名乗ってもらえてないし、多分3年生だとは思うけど学年もわからない。うー…研磨くんと早くお話したいな。



「クロなにしてるの」

「おー、研磨。臨時マネ確保して来た」

「! 研磨くんっ」

「あら」



少しだけ不振な顔をした研磨が現れると、みすずは嬉々として駆け寄った。

その安心した表情に警戒心を抱かれていた黒尾は残念そうに両手を挙げた。せっかく連れてきたのにのに、と言いたげではあるが。



「嫌だったら断ってもいいんだよ」

「でももう話しついてるって」

「それなんか脅迫みたいだよクロ」

「でも研磨も嬉しいだろ?みすずチャンの臨時マネ」

「それはそうだけど」



嬉しい、と思ってもらえるとは予想外だったみすずは目を丸くして研磨を見た。



「…音駒の臨時マネ、やってくれる?」

「っうん!」



遠慮がちに改めて頼み直した研磨の姿が可愛く思えたみすずは、満面の笑みで頷いた。

黒尾の試合中の姿を見ていたらまた変わったかも知れないが、まだ知らない人にカテゴライズされている黒尾と、ゲーム内とは言えそれなりに交流のある研磨とでは天と地の差がみすずの中ではあった。



「俺の時とは反応が全然ちがーう」

「そりゃクロはみすずと初対面みたいなもんじゃん」

「あーそっか、俺は音駒の主将の黒尾鉄朗デス」

「くろーセンパイ」

「鉄朗センパイと呼んでもいいんだヨ??」

「「……」」

「2人してそんな目で見ないで」





◇◇◇



「「「「音駒の臨時マネ?!」」」」

「はい、向こうの主将さんからお願いされたので…だ、ダメでした?!」



武田先生からそう告げられると反抗はしないけど
みんな不服そうな顔をした。影山は舌打ちしてたな。

武田先生にはもう少し、抵抗と言うものを覚えてもらいたいものだが…こちらが練習試合をお願いしている手前、無碍に断ることも出来ないんだろうな。て言うか主将からって…なんで目付けられてんのうちの子は。

あれ、そう言えば、姿が見当たらない。



「当の本人が見当たらないけど、清水知ってる?」

「忘れ物が無いか最終チェックしてたけど…もう来てもいい頃だね」

「ハーイ、みんなお待ちかね!可愛い臨時マネちゃん連れて来ました〜!」

「…なんでクロが得意げなの」



噂をすれば。

音駒の主将とセッターに連れられて、体育館に入って来た。孤爪とは近いが、黒尾との距離感からあんまり親しげでなさそうなところを見ると、警戒心を持ってくれていることにホッとする。

まあ多分コレが終わる頃には仲良くなってそうだが。



「くっくろ……さ、なっ、じょ、……ま?!だれ?!」

「山本、最後しか聞き取れねーよ」

「烏野1年マネージャーの神崎みすずです。音駒さんにマネージャーがいないとのことなので、お手伝いと、あと偵察をさせて頂きますのでどうぞよろしくお願いします!」

「あれ?なんか任務1個増えてない?」



音駒メンバーに頭を下げたあと、猫又監督と直井コーチにもすぐに挨拶をしに行っているところを見て、その礼儀正しさに鼻が高くなる。

挨拶を交わしたあと、アップ中の俺たちのコートに走って来た。



「と言うことで、また潔子センパイに任せきりになってしまいますが…」

「それは大丈夫なんだけど、なんだろう。なんかムカつく。」

「む、むか?!」

「分かる、みすずちゃんって何でそんなにホイホイ取られちゃうの?」

「ホイホイ…前にもあったの?」

「青城と練習試合の時も天使ちゃん取られたんスよ!!」

「ホント…誰にでもしっぽ振るんだネ」

「今回はちょっと不本意ですーっ!」

「ちょっとかよボケ」

「みすず!あっちのコートにいても俺の活躍見ててくれよな!」

「俺も俺も!絶対勝つから見ててくれ!」

「はい、もちろんです夕センパイ!翔陽くん!」



突っかかった月島・影山にはむくれていたが、ポジティブな言葉をかけた西谷・日向にはやる気に満ちた表情で応えている。

みすずはどこにいても両チームとも観られる目を持っているから、その辺りの心配はしていないけど、やっぱり「勝利の天使」には自分たちのコートに居て欲しいと思うのは俺のわがままだろうか。



「みすず」

「大地センパイ…なんか、いつもごめんなさい」

「謝る必要はないけど、くれぐれも!気は抜かないようにね。青城の時はみんな知り合いだったみたいだけど、今回はそうじゃないでしょ?」

「ハイ!気は抜きませんっ」

「(これ本当にわかってるのか……?)」

「へえ、サームラくんは過保護なのね」

「これはこれは黒尾くん。"うちの"みすずを今日はよろしくお願いします」

「ええ、今日は"うちの"マネージャーとして、大切にお預かりしますネ」

「…なんか火花が見えるのは気のせいですか?」



黒尾くんはにんまりとした顔でささっ、とみすずを連れて行った。

全く…これじゃあ俺たちが気を抜けない。




音駒主将の思惑


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