及川徹は期待に応える





月島の言う変人トスアンドスパイクが決まり始めたところで第2セットは順調に烏野が取った。このまま烏野に流れが来たと思ったところで、急に体育館が色めきだった。

来た、及川徹が。


「おお戻ったのか及川。足はどうだった?」

「バッチリです。もう通常練習もいけます、軽い捻挫でしたしね」

「まったく、気をつけろよ」



監督と話が終わると、すぐに隣に座っている白ジャージに目を移す。

頭にぽんと優しく手を乗せると、その顔が及川を見上げた。体育館に入った時はいろいろと驚いたが、見慣れた顔に笑みがこぼれる。



「みすずチャンひさしぶり」

「徹センパイ…!」

「どうしたの青城のジャージ着て…転校して来たの?」

「いえ、まさか」

「ふうん、でもまさか烏野にいるとはね。飛雄ちゃんのこと追っかけたの?」

「あ、及川さんその下りもうやりました」

「俺は知らないんだよ国見チャン!」

「その下りもやりましたね」

「金田一まで!」

「遅れてくるからこうなるんだろ」

「仕方ないじゃん、病院行ってたんだからサ!」

「元気で何よりです」

「あ、もしかして及川さんに会えなくて寂しかったの〜?うりうり」

「やめてくださ〜い」



みすずの頬を人差し指でぐりぐりするその姿に烏野陣営はぴきりと青筋を立てていた。



「影山くん、あの優男誰ですか?僕とても不愉快です」

「あれが青城の主将だ」

「及川さん。超攻撃型セッターで、攻撃もチームでトップクラスだと思います。あと、すごく性格が悪い」

「お前が言うほどに!?」

「たぶん、みすずに必要以上に構ってるのも半分わざとだと思う」

「お前や天使ちゃんの知り合いってことは北川第一の奴かよ」

「はい、中学の先輩です」

「(王様の先輩ってことは…大王様?)」

「飛雄ちゃんひさしぶり〜!おがったね、元気に王様やってる?」

「親戚のおじさんみたい」

「誰がおじさんだ!!」

「とりあえずお前はアップ取ってこい!いつもより念入りにだぞ」

「はぁーい…みすずチャン手伝ってよ」

「寂しがりですか」



ここで及川がアップを取っている間、烏野は順調に得点し、マッチポイントまでこぎつけていた。

正セッターでは無いとは言え、ここまで青城を追い詰めたのは今の烏野からしたら凄いことだ。何せ烏野もベストメンバーではない。青城コート側にいるみすずもぎゅっと拳を握った。



「(あと1点、あと1点で…)」

「そう簡単には勝たせてあげないよ」

「うっ、おも…」



アップを終わらせたらしい及川の声が頭上から降って来たと思ったら、後ろから腕が回って来た。極めつけに頭に重みがかかる。

すっぽりと及川の腕の中に収まったみすずを見て、ぎっと烏野チームが睨みつける。



「ぐっ…及川さんめ、好き放題やりやがって…」

「あれは?あれもわざとなんですか影山くん」

「田中その顔やめろ!」

「いや、大地も顔こえーよ!」


「…みすずちゃんの大好きな俺のサーブ、ちゃんと見ててね」



ちゅ、と髪に音を立てて口付けると、烏野コートだけでなく、青城コートからも「ああ゛ー!!」と言う声が上がった。



「せ、せ、セクハラですよ及川さん!!」

「何やってんだボケ!!そんなことやってる暇あったらさっさと準備しろボケ!!」

「…こっちに連れて来なきゃ良かった」



当の本人は、高鳴る胸を抑えていた。
…それはもちろんキスされたことではなく、及川のサーブが見られることに興奮しているのだが。

監督は呆れたため息を吐き、次サーブの国見と変わるように指示した。



「後はセンパイに任せなさい」

「はい」

「お疲れ英くん」

「みすずってなんでそんな無防備なの?別に馬鹿じゃないのに」

「? そうかな?」

「…ハァ」



国見はさり気なく及川が触れた髪を撫でて、控えに戻った。

1ヶ月ぶりに見る及川のサーブに、目を輝かせるみすずを見て飛雄は大きく舌打ちをした。



「ヒッ」

「(ああ、やっぱり、みすずは及川さんにはピンチサーバーだってあの期待を向けるんだ)」

「いいねぇ、みすずチャンのその瞳…こっちもゾクゾクするよ。期待に応えなきゃ、殺されるんじゃないかって、瞳」



ボールを構えた及川は、烏野のコートを見据えた。



「いくら攻撃力が高くてもさ、その攻撃まで繋げなきゃ意味ないんだよ?」



そして、月島を指差す。
そこを、お前を、狙うぞと言う、確固たる意思表示。

高く上げられたサーブトスは、及川の手に吸い込まれるように辿り着き、そして宣言通り月島へと打ち抜かれた。



「(やっぱり、徹センパイのサーブ…っ最高!)」



あの日、初めてプレーを観た日から、みすずはやっぱり及川徹のファンだった。




及川徹は期待に応える


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