天使と烏と大王様
「ねえ」
「ハイ」
「着て」
「…なんで?」
「良いから着て」
無事に烏野のジャージを取り戻して、みんなと合流しようとしたら1番後ろにいた蛍くんにジャージを押し付けられているなう。
いや、意味がわからないんですが、と言わせてもくれない圧で仕方なく羽織ってみる。お、英くんのよりちょっとおっきい。
「それで…なにこれ」
「あ゛ーーっ!!月島!!抜け駆けしてしてんじゃねェ!」
「うるさいな、早い者勝ちでしょ?」
「天使ちゃんっ……萌え袖、…天使っ……!!」
「ちゃっかりしてんなあ月島」
「いったい皆様は何のお話をされていますカ?」
話が読めずに?マークを浮かべていると、目の前に潔子センパイが立った。
「みすずちゃんは気にしなくていいし、見なくていいよ」
「あっ、そう言えば同中の及川とかはともかく、なんで青城の監督とも仲良い感じだったの?」
続いて現れた孝支センパイ。
まあ確かによくよく考えてみると、おかしな話ではある。
「実は…及川さんを追いかけて青城に入るつもりだったので学校見学ってことで、よくお邪魔してたんですよね」
「そうなんだ…ホントにあの人のバレーが好きなんだね」
「はい!なんたって一目惚れしたプレーですからね」
「みすずちゃん、及川さんのサーブの時すごく嬉しそうだったもんね」
「今日は少ししか見られませんでしたが、インハイの時には……あ」
そうだ、私はもう臨時マネじゃない。
烏野を見て行くと決めたのだから、フラフラしてる場合じゃないんだ。
「俺はさ、みすずちゃん」
「……はい」
「偵察もマネージャーの仕事の1つだと思うよ、だからみすずちゃんのしたいようにして欲しい」
「うん、私にはみすずちゃん程の分析能力は無いから、そっちのサポートは任せたいな」
「いや、そんなことは……でも、あ、ありがとうございます!!」
がばっと頭を下げると潔子センパイと孝支センパイが楽しそうに笑っていた。
私に出来ることはたくさんやろう、飛雄くんの時みたいに後悔しないように。だって私は烏野のマネージャーなんだから!
「おお、なんかやる気に満ち溢れとる」
「頼もしい」
「お待たせ!行こうか」
挨拶などを済ませたらしい大地センパイが集合したので、皆で校門へ向かう。
「みすず、総評なんだけど帰ってからお願いできるか?」
「はい、もちろんです!あ、でも皆さんいつもよりお疲れの様ですし、後ほどメールでも大丈夫ですよ」
「そうだな、じゃあ戻ってから決めるか…ところでみすずは誰のジャージ着てるの」
「あ…蛍くんのです」
「へえ、月島か、意外だな」
「だよなー、いい顔してるよ」
2人と同じ様に振り向いてみると、蛍くんがギャーギャー騒いでいる飛雄くん翔陽くんを見てニヤニヤしている。
練習試合終わったところなのに、ほんと元気だなぁ。
「にしても青城に勝つなんて…これからホントに楽しみですね!」
「ああ…でも正直、及川のいる青城と真っ向勝負で戦って勝つためには、まだ決定的に足りないものがある」
「おお、さすがキャプテン。ちゃんと分かってるね」
校門に徹センパイが寄りかかっていた。
もう、さっき決め台詞っぽいの置いて来たのに、また会っちゃ決まらないじゃん。
ムッとして見ていると、翔陽くんと龍センパイがいつもの調子で絡みに行った。
「出たな大王様!!」
「大王様……ぷふっ」
「何だコラ!」
「何の用だ?!」
「やんのかこら!」
「やんのかこら!」
「いや、あの徹センパイ一応3年生ですよ」
「一応ってなにさ!!……ハァ。ちっちゃいキミ、最後のワンタッチとブロード、凄かったね」
「え?ああ…えへへ」
徹センパイめ。
それは私の総評で伝えて、翔陽くんにその顔させたかったのに…っ。
「次は最初から全力でやろうね。まだセットアップは見せてなかったし…あ、そうそうもちろんサーブも磨いておくからね」
たぶん、徹センパイが頭からいたらフルセットはやらなかっただろうなぁ。
例え1セット取れたとしても、勝ちを掲げることは出来なかったはずだ。それはセンパイ個人の攻撃力もあるけれど、なんてたって徹センパイはスパイカーの120%の実力を引き出せるセッター。
さっきの試合で点にならなかった攻撃も、徹センパイのトスなら得点にさせるはず。
「君らの攻撃は確かに凄かったけど、レシーブがグズグズじゃあ、すぐに限界が来るんじゃない?強烈なサーブ打ってくる奴はなにも俺だけじゃないしね……インハイ予選はもうすぐだ、ちゃんと生き残ってよ。俺はこの」
「っえ」
なんか近付いて来たと思ったら、ぐいっと腕を引かれて、私を後ろから片手で抱き込むと、もう片方の手で飛雄くんを指さした。
「クソ可愛い後輩を、公式戦で同じセッターとして正々堂々叩き潰したいんだからサ」
「それはこの体勢で言う必要があるんですか?」
「簡単にはあげないよ、飛雄」
答えは返って来ず、飛雄くんを見たままそんなことを言うと盛大な舌打ちが聞こえて来た。
だからこの人は一応3年生の先輩なんですけれども。
呆れて2人を見ていたら、今度は翔陽くんが目の前に来て、なんか少し迷ってから私の、あ、ちがう蛍くんのジャージを掴んで、徹センパイの腕の中なら引っ張り出すと、とても遠慮がちに両肩に手が乗った。
「みすずは、もう烏野のマネージャーだ!あげるとか、あげないとか、無い!」
「…へえ」
「翔陽くん、」
「それにレシーブなら特訓する!」
「…レシーブは一朝一夕で上達するもんじゃないよ、キャプテン君は分かってると思うけどね」
「……」
「大会までもう時間はない、どうするのか楽しみにしてるね」
徹センパイはそれだけ言うと、体育館の方へ帰って行った。
かと思いきや、途中で振り向くとまるであの、サーブを打つ時の様な表情が、私を捉えた。
「俺も負けないよ、みすず」
「…受けて立ちます!」
まさかこんな風に徹センパイと対峙する日が来るなんて、思わなかった。
私はずっと徹センパイのファンで、味方で、それはもちろん変わらないけれど、徹センパイが試合の時に応援の対象が徹センパイじゃなくなるなんて。
「翔陽くん」
「へっ!あ、肩、ごめっ」
「勝とうね、インハイ」
離そうとした翔陽くんの手を掴んで、ぎゅっと握る。
「…と、ととと、とうじぇん!」
「こらみすず、俺らもいるだろ」
「いっ…えへへ、スミマセン」
こつん、と頭に大地センパイの拳が降って来た。
ショートしてるから離してあげて、と言われたので翔陽くんの方を見るとヘロヘロになっていた。言われた通り手を離すと龍センパイに回収されていった。
「まあ、確かにインターハイ予選まで時間はない。けど、そろそろ戻ってくる頃なんだ」
「それって、」
「おお!」
「なにがですか?」
「烏野の守護神!」
天使と烏と大王様
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