菅原孝支と烏養繋心に怖がられる





「みすずちゃんお疲れさま」

「孝支センパイ…すみませ、ひさしぶりにテンション上がっちゃいました」



1年生に取り囲まれて話している西谷を眺めながら、片付けを終えてへばっているみすずちゃんにお水を手渡す。

受け取るとすぐに3分の1くらい飲んでいた。頑張ってくれてたんだなぁ、と思うと本当に頼もしく思う。なんか愛らしくなって、その頭を撫でるとちょっとびっくりした顔をして、いつもよりへにゃへにゃの笑顔を浮かべた。何これほんとにかわい。



「孝支センパイは器用だから、サーブもっと磨いていきたいですね」

「と言いますと?」

「強いサーブと言うより、ここに来たら嫌だなサーブです」

「ネーミングセンス」

「後やっぱり周りを見る力に長けているから…」

「みすずちゃん、もう部活終わりだから、ちょっと休みなさい」

「う、はい…すみません」



怒られたと思ったのかしゅん、と項垂れた。
なんなの?犬の耳としっぽが見えそうなんだけど。

とにかく、練習中もかなり集中して色んな場所を見てくれてるし、それに加えて今日からコーチの代役を買って出てくれて、いつにも増して疲れてるだろうし、あの西谷の調子じゃあ日向や月島のレシーブ練にも今後付き合おうとするはずだ。清水の手伝いの手も抜いてないし、ちょっと頑張りすぎなんじゃないかと思う。

青城との練習試合で、火がついたんだろうなあ。



「西谷夕さんて、やっぱりカッコいいですね」



なぜリベロをしているのかを熱く語る西谷を見て、ぽつりと呟いた。

まあ確かに西谷は男から見ても男前だ。普段はうるさいけど、芯があるっつうか。そういやあ、伊達工との試合の時が初対面だと思ってたけど…。



「西谷と面識あったんだな」

「あ、はい…ベストリベロ賞を獲得されてた時つい、勢いで話しかけてしまって」

「みすずちゃんて、熱くなると意外なことしちゃうタイプだよね」

「なんていうか…その時、感動したこととか、いま言わなきゃ意味ない!って思ってしまって…」

「人懐っこすぎるのも考えものだね」

「え」

「駄目だよ、知らない人に着いていっちゃ」

「…お母さんみたい」



今はそれでも良しとしよう。

お母さんの言うことは聞くもんだべ。と付け加えると、はあいと笑いながら気の無い返事が返ってきた。絶対わかってないよこの子。




「甘やかされとる」

「あ、お父さん来た」

「やめろ、スガと夫婦なんてごめんだ…」

「え〜、お似合いですよ」

「なあ大地、今の烏野には最強のおとりがいるんだよなぁ。今まで決まらなかったスパイクでも、日向と影山のコンビがいればきっと決まるようになる」

「うん」

「武田先生の言ってた化学変化で、俺たちはきっと変われる気がする」

「良い方に変わるといいけどな」

「ハハッ、弱気やめろよ…それに超頼りになるファンまで味方だし」



手を取って引き起こすと、みすずちゃんはまたへらへら笑っているのかと思ったら、そのまま俺の手を握り直した。

えっ、と思った頃には、その少しギラついた瞳に捉えられていた。



「孝支センパイが、言いましたからね」

「え?」

「私が観ていたいと思えるチームになったら、って」

「…うん」

「そこには、孝支センパイも入ってますからね」



ああ、怖いな、期待ってこんなに怖いものなのか。
それでも心地良いのはなんでだろう。



「はい、みすずは男の手をずっと握らない!勘違いしたらどうするの」

「やっぱり大地センパイはお父さん!」

「おお、おお、それでも良いけどフラフラするなよ〜」

「大地いまジャマしたべ」

「だって、スガだけズルいだろ」

「ズルいってなんだよ」


「西谷夕さん!!!」

「「「「!?」」」」

「な、なんだ…!」



いつの間にか西谷たちの方へ歩み寄って行ったみすずちゃんが、大きな声で西谷を呼んだ。あの西谷がびっくりしてたじろいでる。

うーん…なんて言うか、この感じ。



「告白でもするみたいだ」

「「「「ハァッ?!」」」」

「えっ、天使……!いや、俺は、そんなつもり……でも、まあ」

「夕センパイって呼んで良いですか!」

「え」

「私のことはみすずって呼んでください、天使じゃなくて」

「夕……センパイ…おお、すごく、いい、響きだ…!!みすずもアイス食うか!!!」

「食います!!」



全員ホッとした顔をした。

こりゃ大変だ。みすずちゃんは懐に入るのが上手い。ライバルはともかく過保護な保護者が増えそうだ。





◇◇◇



「んで、なんでお前帰ってねーの」

「だってここでまとめしたら、繋心くんにアドバイスもらえるんだもん」

「仕事中だっつーの」

「漫画読んでるだけじゃん」

「うるせ」



坂ノ下商店に1人残って今日のまとめをタブレットに打ち込んでいたら、繋心くんに悪態つかれた。

暇なんだからいいじゃんね、べつに。



「…今の烏野どんな感じなんだよ」

「気になってるじゃん」

「うっせ!なんもアドバイスしてやんねーぞ」

「ゴメンナサイ」

「つーか、細か!これ俺のアドバイスいるか?」

「いりますー!私はただのコーチ代打だもん。武田先生がコーチ見つけて来てくれるまで、頑張らなきゃ」



中に入って一緒にやってみて、改めて思ったことがたくさんあった。びっくり攻撃にびっくりしすぎて目を持ってかれがちだったけど、やっぱりうちのチームはレシーブが弱い。

攻撃は最大の防御、とは言うけれどバレーボールにおいて守りのレシーブがぐずぐずなのはいただけない。




「うーん、今はやっぱり1年生のレシーブが問題かなって思う。でも2.3年生には攻撃的な練習して欲しくて…だけど別々に練習するには人手が足りないんだよね」

「ふうん」

「なんか必殺技は超強いけど、それに至るまでの通常攻撃が物足りなくて、防御力が超弱いって感じ。経験値の振り分け超攻撃型にしちゃった、みたいな」

「お前…そんなにゲーム好きだっけ?」

「えへへ…タブレット買ってから、ゲームはまっちゃったの」



週間ランキング1位なんだよ、と得意なゲームを開くと呆れた顔をされた。

夕センパイが、戻って来てくれた今、防御力が高まったのは確かだけど、夕センパイがすべてのボールを拾えるわけじゃない。攻撃力を高めながらも、他の部分も底上げしていかなくちゃいけない。



「あ、そう言えば、いちおじいちゃん元気?」

「ああ…。いや、いま入院中だ」

「えっ?!そうなの…?」

「んな、不安そうな顔すンな!元気すぎて看護師の姉ちゃん困らせてるらしいから安心しろ」



いちおじいちゃんは繋心くんのおじいちゃんで、夏休みにたまにバレーボールを教えてくれた。陽だまりみたいな温かい人で、いちおじいちゃんが笑うのがすごく好きだった。

私を安心させる様にがしがし、と繋心くんの大きな手が頭を撫でてくれる。

少しだけ泣きそうになってしまった時、お店のドアがからりと開いた。



「こんばんは〜」

「…また先生か」

「た、武田先生…?!」

「みすずさん?!」



スーツ姿の武田先生と顔を見合わせて、口をぱくぱくさせる。

確かに皆はもう帰ってるし、繋心くんに頭を撫でてもらっている姿なんて驚きものだろうし、私は私で坂ノ下商店に武田先生が現れるなんて思いもしなかったので、びっくりした。

……え、もしかして。



「コーチの当てって、繋心くん…?」

「そうなんです!実は少し前から勧誘していて…みすずさんは、えっと…」

「繋心くんは小さい頃に遊んでくれていたお兄さん?だよね?」

「俺に聞くなよ」

「そうでしたか…。しつこいかも知れませんが、お願いします!未経験者の僕では情けないですが力不足なんです…。あの子らの可能性は素晴らしい、どうか彼らに指導お願いします。烏養くん!」

「……え」

「?」

「う、烏養って」

「彼は前にいらっしゃった烏養監督の、お孫さんですよ」

「ええぇえっ 繋心くんが…えっ、いちおじいちゃんが烏養監督ってことっ?!」

「お前、気付いてなかったのか」

「だって…名字まで覚えてなかった……」



こんな偶然あるものなの…?
ていうか、私ったらすごい人に教えてもらってたんだ。それで繋心くんが烏野バレーボール部を気にする理由は、これか。

そりゃあこんな近いところに烏養監督の近親者がいて、バレーボール経験者なら武田先生がしつこく勧誘する気持ちも分かる。でも、武田先生が深く頭を下げても、繋心くんは引き受けることなく突っぱねた。

そのうち、また来ます、と武田先生は出て行った。



「はー…本当しつこいんだよな、あの先生」

「繋心くん」

「あ?お前までやってくれとか言い出すなよ」

「言わないけど繋心くんたぶん、引き受けると思う」



なんとなくそう思って、ちょっとイライラした繋心くんを見ると怪訝そうな顔をされた。



「…お前のその目、たまにこえーんだよ」




菅原孝支と烏養繋心に怖がられる


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