天使は2年生に翻弄される






朝、早起き出来なかったのでお弁当を忘れてしまった私は仕方なく購買へと足を運んでいた。

お昼の購買って人並みすごくてまともに買える気がしないんだよなぁ。



「おっ、みすずだ!」

「うお、天使ちゃん…!!」



少し離れたところから名前を叫ばれ、びっくりしてそっちを向くと夕センパイと龍センパイ、後ろに苦笑いを浮かべている力センパイが立っていた。

力センパイが保護者に見える。



「龍センパイ!私の名前はみすずです!」

「う、あ…みすず…!!」

「名前呼ぶのにどんだけ抵抗あるんだ田中」

「みすずもなんか買いに来たのか?」

「いつもはお弁当なんですけど、朝作れなくて…」

「え、いつも作ってるの?」

「はい、一応…簡単にですけど」

「今度みすずの弁当食いてえ!」

「そんなっ、センパイに食べさせるようなものでは…!!」

「お、俺も…!」

「ええっ、じゃあ…機会があったら」

「「よっしゃあああーっ!!!」」

「ごめんね、うるさくて」



ちょっとだけ面倒な約束をしてしまった。
それでも、そんなに?と言うくらいに喜んでくれるセンパイたちを見ると、まいっかと思ってしまった自分がいた。

まあ、作る機会なんて早々なさそうだけどなぁ。




「で?みすずは何買うんだ?」

「あー…落ち着いてから、余ってるものを」

「焼そばパンにしろよ!うめぇから!」

「でも人気だからすぐ無くなっちゃうよ」

「俺たちが買ってきてやるよ!」

「そんな!大丈夫です!お腹に入ればなんでも!」

「良いから良いから!待ってろ!行くぞ龍!力!」

「おう!」

「ホントにごめんね」



制止の声も届かずセンパイたちは人並みに埋もれて行った。

どうしよう、お金も渡していないし…だからと言って追いかけるのも億劫だ。大人しく待っていよう…でも、どうしよう1年の分際でセンパイに買いに行かせて、大地センパイに怒られないかな。



「ねえ!もしかして…神崎みすずさん?」

「へ…」



想像した大地センパイの怒り顔に青ざめてると、ボブヘアのすらりとした可愛らしいセンパイに声をかけられた。

どなた…でしょうか。もしかして今の見てて、1年生のくせに、みたいな…?わあ、どうしよう、3年生で、なおかつ大地センパイの知り合いだったら…!終わった、わたし終わった。



「突然ごめんね!私3年の道宮結、女子バレー部のキャプテンなんだ」

「(おわった、絶対大地センパイの知り合いだ)あ、あの…その、わたし…えっと、センパイにご飯を…パンが、焼きそばで…」

「神崎さん!女バレ入らない?!」

「すみませ、え…?」



え?なんて?女バレ入らない?
……えっ、怒られるんじゃないの??



「3年に北一出身の子がいて、神崎さんが凄い選手だったって聞いて…それでこの前、練習前にスパイク打ってるところたまたま見ちゃって」

「あ…」



飛雄くんにトス上げてもらった時に…。

ど、どうしよう…もちろんもう選手に戻るつもりは無いけれど、道宮センパイのきらきらした瞳を見ていると一言で断るのもなんだか忍びないような。



「「結センパーイ!」」

「お疲れ様です」

「お疲れさまー!」

「どーしたんスか?」

「みすずと知り合いですか?」

「いや、えっと…神崎さん女バレに勧誘してて」



道宮センパイは、私がマネージャーをやってるからか龍センパイたちの顔を見るとちょっと気まずそうにしていた。

昨日の練習で私が元々プレーヤーだったことは、なんとなく分かったとは思うけど、センパイたちはどんな反応するだろう。2年生にパン買いに行かせちゃう生意気な1年生だから、あげるって言われたらどうしよう。


なんて思っていたら、両肩を後ろに引かれて、その代わりに龍センパイと夕センパイが私の前に立った。



「結センパイ、すんません!みすずは俺らの勝利の天使なので」

「みすずは有能だから、気持ち分かりますけど頼もしいマネージャーを渡すわけには…」

「夕センパイ、龍センパイ…」

「すみません、他あたってください」

「力センパイまで」



ぽす、と私の頭に手を置いてにっこり笑った力センパイ。

まさかこんな風に、言ってくれると思わなくて、嬉しくてにやにやしてしまいそうなのを堪えて、私からもごめんなさい、と頭を下げると道宮センパイは諦めないから!と言って、お友達の所へ戻って行った。


私は堪えきれなくなって、目の前の2つ背中に飛びついた。



「せんぱいっ…!!」

「「うお」」

「超うれしかったです…!私もっともっと頑張ります!!」

「「お、おう…!!」」

「みすずちゃん、2人とも死にそうだから離れたげて」



力センパイに剥がされると、夕センパイと龍センパイは真っ赤になってぶっ倒れた。



「これ、お昼ご飯ね」

「あっ、すみません、ありがとうございました…!いくらですか?」

「いいよ、力センパイの奢りです」

「そんな!駄目です…!!」

「良いから奢られときなさい、俺もみすずちゃんの弁当たべたいし」

「え」

「楽しみにしてるね」



ぽんぽんと改めて私の頭を撫でると、倒れてる2人を回収して帰って行った。



「力センパイ…絶対モテる」




天使は2年生に翻弄される


prev next /back top