影山飛雄は期待されたい





それから2年後。

みすずは及川たちの卒業後もプレーヤーに戻ることは無く、男バレのファン兼臨時マネージャーとして放課後を過ごしていた。


だが、その男バレの"ファン"の頭角を現し始めたのが及川たちの卒業後からだった。


みすずは北川第一中学だけでは飽き足らず、彼らが大会に出場する際はマネージャーとして付き添いはするが、臨時なのをいいことに、会場を駆け回って1セットずつでも、多くの学校の試合を観戦し、選手やそのチームがどんなプレイスタイルなのかを網羅し始めたのだ。


また最近では、及川たちが試合に出るとあらば駆け付けるため、高校生の大会でも同じことをしているらしい。



「なんかたまに、俺らより走り回ってる様な気がする」

「国見よりは走ってるかもな」

「うるせー」

「……」



金田一と国見がそんな話をしている中、影山だけは浮かない顔だった。


みすずがあんな風になったのは、及川たちが卒業してから。

みすずはバレーボールが、強い選手が、強いチームが好き。

……ということは今の北川第一の男子バレーボール部は、みすずを満足させられるチームじゃ無いのかもしれない。


及川を見て学んで来た影山にとってそれは、少なからず悔しいことだった。本人に確認した訳ではないから、そうだとは言い切れないし、聞いたところで教えてはくれないだろうが。



「まあでも、他校のプレイスタイルとか分析してくれるお陰で俺らも助かってるとこあるしな」

「たしかに。だけど、それで知り合い増やして来るのもどうかと思うけどね」

「俺らが入学してから当たったことない学校の奴と知り合いだった時はビックリしたな」

「…人見知りとかしねぇからな、みすずは」

「危機感無さ過ぎて…心配だ俺は……」

「金田一過保護過ぎ乙」

「お前もだろ」

「別に俺はみすずが誰と仲良くしようが関係ないね」

「「(うそつけ)」」

「皆おはよー!」

「あ、噂をすれば」

「「「「はざーッス!!」」」」


もう随分聞きなれた声に3人(ないし部員全員)が振り向くと、体育館の入口でぶんぶん手を振るみすずがいた。

今日はもう自分たちの手伝いに専念するつもりなのかジャージ姿のみすずはそのまま体育館に入るなり、スクイズの入ったカゴとジャグをさっさと回収して出て行った。



「「「最初はグー、じゃんけん」」」


ぽんっ。

突然始まったジャンケンに勝利した影山はみすずの後を追いかけた。

人数分のスクイズとジャグなんて、空ならまだしも水を入れたあとみすずが1人で運べる訳もなく、気付いた影山たちが手伝っていた。だが、それも恒例となって来ると誰が手伝うのかで争いになり、いつからか公平にジャンケンで決めることになったのだ。



「今日は飛雄くんかぁ」



水道でドリンクを作る隣に並んだ影山に、嬉しそうに笑ってみせるみすず。

これは可愛いと認めざるを得ない。
金田一たちがみすずに対して過保護になるのも仕方ないと思った。なんか、なんていうか、放っておけない感じがする。



「お前さ、もしかして」

「わざとだったりしてね」

「え」

「んふふ、嫌いになった?」

「…いや、別に嫌いにはなんねぇけど……え、わざとなのか?」

「半分半分?」



陽気に鼻歌を歌いながら作業を続けるみすずに、コイツにはバレー以外では勝てないんだろうなと影山は思った。



「…こないだも及川さんのとこ行ったんだってな」

「うん、なんか、北川第一だからか学校見学ですって言ったら入れてくれる…し、なんか最近は顔パスみたいな感じ」

「スゲーの、あの人」

「すごいよ。ジャンサもコントロールどんどん良くなるし、岩泉先輩のスパイクも強烈になって来てる…まぁ、信頼関係厚くなるほど手が読みやすくなるのは要注意だけど…そこまで追い込まれることもあんまり無いだろうしね、もちろん2人だけじゃなくて、」



ドリンクの粉を正確に入れながらも、饒舌に青城のことを語るみすずからは本当にバレーボールが好きなんだ、ということが伝わってくる。

少し前までは、北川第一の男バレの話ばかりだったのに今やこれだ。

やっぱり、俺たちでは満足出来なくなってしまったのだろうか。思い当たる節があるからこそ、影山はみすずを見る度にそれを考えてしまっていた。


ぐっと拳を握って、今まで聞けなかったことを聞こうと意を決して口を開く。



「…今の北川第一は、どう思う」



震えそうな声を必死に隠しながら、影山は聞いた。

ドリンクを作り終えたみすずは蛇口をきゅっと締めながら、地面に置いたカゴに最後の1本をしゃがみながら入れると、そのまま影山を見上げた。



「それは飛雄くんが…1番わかってるでしょ?」



射抜くような視線。

よいしょ、と両手でそのカゴを持つとそれ以上何かを言うことも無く体育館の方へ歩いて行く。

それは、影山が考えていることが正解だと言っているということ。


影山は1人舌打ちをした後、ジャグを持って後に続いた。すでに体育館の入口に着いていたみすずはくるりと影山の方を振り返った。



「わたし、飛雄くんのプレイ凄いと思う。トスもスパイクも、サーブも…飛雄くんを見てるとワクワクするの」

「! じゃあ、」

「でも、試合はぜんぜん、楽しくない」



ぴしゃり、と言い放ったみすずはそのまま体育館に消えた。

ああやっぱり。
でも、どうすればいいんだよ。
俺は勝ちたいだけなんだよ。
勝って、勝って、もっとボールを触っていたいだけなんだよ。

みすずの、その、きらきらした瞳に、映して欲しい、だけなんだよ。


「……っクソ」




影山飛雄は期待されたい


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