日向翔陽は混乱させられる





東京の古豪・音駒高校とゴールデンウィーク合宿最終日に練習試合が決まった。

「名勝負!ネコvsカラス ゴミ捨て場の決戦」と呼ばれるくらい因縁の相手みたいだ。武田先生は、繋心くんを引っ張る最高のきっかけだと思っているみたい。そのうち来るんだろうなぁ、繋心くん。



「みすず!レシーブ教えて!」

「うん、やろっか」



自主練の時間になって、最近よく一緒にレシーブ練するからか翔陽くんは前みたいに緊張しなくなって来た。

気軽に話しかけてくれるようになって、ちょっと嬉しい。



「みすずはさ、旭さんがなんで部活来なくなったか知ってる?」

「うん、わたし…その試合観てたから」

「そーなの?!」



何度トスを呼んでもブロックされて、最後、トスを呼ばなくなったエースの背中。

みんなが繋いだボールを任される重圧。簡単に想像できるものじゃない。だから、東峰旭さんが部活に来ないのも、理解できないわけじゃない。でもきっと、本当は、戻って来たいと思っているはずだ。

あの、試合前の、やる気に満ち溢れた姿は嘘じゃないと思うから。



「そういやみすずも、もともと選手だったんでしょ?」

「中1までね。今もたまにやってるけど…翔陽くん腰高い」

「あ、ごめん…!っなんで辞めたの?」

「大王様のプレーに惚れたから」

「それだけ?じゃあ別に辞めなくてもいいじゃん」

「自分がプレーしてる時間も惜しいくらい、見ていたくなったから」

「…ふうん」



嘘はないし、後悔もない。
こうやって翔陽くんや飛雄くん、烏野バレー部の皆を見守るのも本当に大好きでやっている。



「納得できない?」

「んーん!なんだろ、この気持ち。悔しいって感じ!俺もみすずにそんな風に思ってもらいてぇっ、あ!ごめ、」



翔陽くんがアンダーで取ったボールが変な場所に飛んで行く。

ホントに、レシーブはまだまだへったくそだけど、それでももうキミには十分すぎるくらい期待している。悔しいなんて、そんな風に思わなくても。



「今だってそう思ってるから、烏野バレー部でマネージャーやってるんだよ私」

「えっ」

「そもそも翔陽くんのプレーが観たくて烏野に来たのに。忘れちゃったの?」

「あ、う、そ、そうだけど…でも俺はエースじゃないし…影山のトスが無いと、俺1人じゃ」



最強のおとり。

その称号がなんとなく気に食わないと思っていることは知っている。でも翔陽くん、おとりって凄いんだよ。皆が翔陽くんを「凄い、強い」って思わないと機能しないんだよ。そう思わせる翔陽くんって、最強じゃない?

と、言ってあげるのは、たぶん私じゃダメだから。

パス練習のために開けていた距離を詰めて、私より少し上にある翔陽くんのその頭の上に手を乗せる。



「そもそもバレーボールは1人でやる競技じゃありません」

「ひ、え、みすずっ…?」

「ふふ、大丈夫だよ。翔陽くんはこれから沢山のことを見て、感じて、吸収できる。今すぐじゃなくて良い。そのために同じ高校に来たんだから」

「どう言うこと…?」

「私の高校3年間かけて、翔陽くんに期待してるってこと。」



そう言ってにっこり笑ってみせると、少し意味を考えてから真っ赤になってぷしゅっとショートしてしまった。

告白にも似たそれは翔陽くんを混乱させるには十分だったらしい。



「みすず!日向をいじめるのはやめなさい!」

「い、いじめてないですよーっ」




日向翔陽は混乱させられる


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