俺がいればお前は最強だ





練習試合1セット目は町内会チームが取った。

旭センパイが復活してから、なんとなく、翔陽くんの様子がおかしい。



「翔陽くん集中して!」

「う、うん…」



ああ、だめだ、これは。

さっき飛雄くんが話しかけてた時も、全然違う話をしていた。いつもなら怒られてビビってるはずなのに。



「みすず…?」



私が立ち上がったと同時に、旭センパイのスパイクが翔陽くんの額にぶつかって吹っ飛ばされていた。

私は足が痛いのも忘れて、翔陽くんに駆け寄っていた。



「翔陽くん!!」

「日向!!」



座り込んで顔を覗き込むと、額を抑えて唸る翔陽くん。

真っ赤になってる。それより、吹っ飛んだ時に変なところをぶつけてないか気が気でなかった。



「大丈夫?ふらふらしない?」

「ごめんな!!大丈夫か?!」

「…どう考えてもボケっとしてたこいつが悪いでしょ」



急にバッと起き上がろうとした翔陽くんを止めて、ゆっくり起こしてあげると、申し訳なさそうに謝った。

本当はちょっと休憩して欲しい、頭をぶつけた時あとから症状が出たりするから…。



「念のために休憩を…」

「ほ、ほんとに大丈夫です!ちょっとかわしきれなかっただけで、大したことは…顔面受け慣れてるし」

「慣れるなよ」

「気持ち悪くなったりしたらすぐ言って。外から見ててそれが分かったら、すぐ連れ出すから。わかった?あと、ちゃんと集中して」

「は、はいッ……ヒィイっ」



私もそれなりに怒っていたが、私より怒っている人がいらっしゃった。



「何ボケっとしてた、試合中に」



言わずもがな飛雄くんである。

制裁を受けてもらおうと、飛び退いてどこかに行こうとする翔陽くんをホールドすると、青い顔と赤い顔を交互にしてあわあわと慌て始めた。



「俺は知ってるぞ。エースはかっこいいけど、自分の一番の武器はおとりなんて、地味でかっこ悪い。自分に東峰さんみたいなタッパとパワーがあれば、エースになれるのに!」

「そんなこと思ってない!くも、ないけど…」



素直で可愛くてにやけそうになるのを、翔陽くんの背中に隠れてこらえる。



「エースがいるって分かってから、興味とか憧れの他に嫉妬してただろ!」

「うっ……」

「試合中に余計なこと考えてんじゃねえよ!」



飛雄くんが怒りたくなる気持ちも、翔陽くんがエースに憧れてしまう気持ちも、わかる。

でもこの怒りは、飛雄くんもちょっと嫉妬してるからなんじゃない?と私は思う。俺のトスがあるのに、まだお前は納得しないのか…みたいな。絶対言わないけど。



「うらやましくって何が悪いんだ!もともとでっかいお前になんか絶対分かんないんだよ!」

「おい!」

「こら!バレー部」



用務員さんに注意されて、話が途切れた。

翔陽くんは、ただの分からずやじゃない。自分にも周りにも素直なだけだ。だからもう何も言わなくても、きっと大丈夫。


私はくしゃくしゃっと翔陽くんの頭を撫でてから、立ち上がった。



「ほら、痛いんでしょ」

「蛍くん…」

「捻挫?してるのに走るなんて、バカでしょ」

「ごめんね、ありがとう」



蛍くんが支えてくれて、机まで戻るとなんかじっと見られてる。

え、なに、こわい。



「もしかして、怪我が理由なの?」

「え」

「時間制限」



なんでそう思ったのか分からないけど、何も言い返せずにいると、試合再開の声がかかって蛍くんはコートに戻って行った。

厳密に言えば違うけど間違ってもいない問いかけに、戸惑った。



「大丈夫か?」

「うん、べつに…隠してるわけじゃないし」



事情を知っている繋心くんが、心配してくれる。

翔陽くんに集中しろって言ったんだから、私が集中しないでどーする。ぱちっと両頬を叩くと、またタブレットとにらめっこを始めた。





◇◇◇



「でも、俺がいればお前は最強だ!!」



そう言った飛雄くんは、ブロックをかわした翔陽くんにドンピシャなトスを上げてみせた。

驕りじゃない、本心だし、事実そうだから。飛雄くんのトスと、翔陽くんのスパイクが合わされば、最強なんだ。


そして、綺麗に決まったスパイクに、心が震えた。

これできっと翔陽くんは、自分の役割に不安になることはもう無い。そうさせたのが飛雄くんなのだから、中学時代を知っている私からすると本当に、奇跡みたいだ。


何度でも言える、わたし、烏野に来て良かった。



「あの2人、同じ中学出身か?それとも小学校から一緒とか…」

「ううん、ここで初めて一緒のチームになったんだよ」

「始めは馬が合わなくて大変だったんだよね?」

「ハイ、そうらしいです」

「…非情だな」



繋心くんもセッターだったし、それに…たぶんレギュラー争いもして来たはずだから、これからのことを考えてしまったんだと思う。

嬉しそうにハイタッチを交わす孝支センパイを見て、私もぐっと気合を入れる。

私は、私に出来ることを。



「おっさんも本気出しちゃうんだぜ〜?」



そんな声が聞こえて、町内会チームの方に目をやると、確か嶋田さん?がサーブのターンだった。

サーブトスを上げて、ジャンプするフォーム。
あ、あれジャンフロだ!



「翔陽くん!まえまえ!」

「ボエーッ」

「ふは、まだ顔面痛め付けるの?」



嶋田さんはそのまま4点も決めてしまった。

はあ、と繋心くん被ったため息。たぶん思っていることは同じだろう。レシーブどうにかせねば。


町内会チームのマッチポイント。
大地センパイがサーブを拾い、翔陽くんに釣られて完全にフリーだった龍センパイがスパイクを打ったものの、夕センパイに拾われて綺麗にセッターに返ったレシーブは、孝支センパイによって旭センパイに繋がり、そのまま烏野コートに打ち込まれ、試合終了となった。



「みすず、今日片付け出来ねーだろうから、おっさんたちに試合の総評、伝えてくれるか?たぶん喜ぶから」

「おっさんて、繋心くん同い年じゃないの?」

「ヘイヘイ、俺もおっさんですよ。おいお前ら!こいつのまとめタメになるから聞いとくぞ!」



わらわらと大人に囲まれて、ドギマギしてしまう。

うーん、やっぱり町内会の人たちはやってる年数が違うから安定感ありましたよね。ちょっとのことじゃあ、動揺しないというか。変人トスアンドスパイクは例外です。


なんて色々言いつつ、1人1人に思ったことを伝えて、今日は本当にありがとうございました、と頭を下げた。



「みすずちゃんって何者なの?」

「え、ただのマネージャーです…」

「てか繋心とどう言う関係なの?!アイツ大丈夫?」

「大丈夫って何がですか…!お兄さんみたいな感じです!」

「えー、鼻の下伸ばしてデレデレしてたよ繋心」

「ありえないですよ!小学生くらいだと思われてます!」

「いいなー俺もこんな可愛い子にくん付けで呼ばれてー!」

「お前ら好き勝手言いやがって!聞いたならさっさと帰れ!」



繋心くんがイラだった顔でしっしっと町内会チームの人を追いやった。



「繋心くん、ホントに音駒との練習試合までなの?コーチ」

「あ?そーだ、そう言う約束だ」

「ふうん?」

「うわ!またその顔!やめろお前!」




俺がいればお前は最強だ


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