第1回天使争奪戦
いよいよゴールデンウィーク合宿が始まった。
飛雄くんはあんなこと言って来たけど、練習中はいつも通りだったから、本当に意味が分からない。ムカついたから、ドリンク薄めに作った。
合宿所に着いてすが、翔陽くんはハイテンションであちこち見回ってはしゃいでいる。かわいい。
今日は潔子センパイが武田センセとご飯担当をしてくれているので、仕上げを手伝いに食堂の方へ足を向けた。
「一日中むさ苦しい連中と顔つき合わせて何が楽しいのさ」
「月島てめえ!」
「半径500m以内に潔子さんがいる空間は、むさ苦しくねぇんだよ!」
「この奥羽山脈の源泉のように清く済んだ爽やかな空気が分からないとは、なんて可哀想な…」
「清水は家近いから、用事終わったら帰っちゃうよ」
孝支センパイの一言で、背後の空気がどんより重くなった。
確かに、私も潔子センパイとお泊まりしたかった…。潔子センパイと夜まで話して、潔子センパイとお風呂入って、髪乾かしてもらったりして…。
「て、なんでみすずちゃんまで落ち込んでるの」
「わたしも…潔子センパイと……お泊まり……」
「みすずちゃんは元気付けるほうでしょ」
食堂に行こうとしていたところを孝支センパイに掴まり、くるりと後ろを振り返らされる。
そこには干からびた龍センパイと夕センパイが倒れ込んでいた。わあ、ゾンビみたい。ゾンビの天日干し。室内だけど。
仕方ないから孝支センパイの思惑に乗ってあげよう。
たたた、と干からびてるセンパイたちの前にしゃがみ込んでみる。
「龍センパイ、夕センパイ」
「「ハッ」」
「わたしじゃ、だめ…?」
声をかけると、満面の笑みがこちらを向いたので、膝を抱え込んだまま、こてんと小首を傾げてみると、そのまま真っ赤になってまた床に沈みこんでしまった。
「おお、破壊力抜群」
「「かっ、かわいい…」」
「日向と山口にも効いてるし」
「…さっさと先輩のこと手伝って来た方が良いんじゃないの」
「は、そうだった!蛍くんありがと!」
「月島、お前意外と妬くよな」
「……行くよ山口」
「はぁー…みすずって、いつも可愛いけど、たまにすんげー可愛くなるんだよな……影山?」
「(あぁっくそ!…可愛すぎんだよボケ)」
漏れなくクリティカルヒットをくらった飛雄だった。
◇◇◇
「UNOやりたい!」
お風呂上がり。
家の引き出しで眠っていたUNOを持って、みすずは1年生が使っている部屋に突撃した。
やろう!とすぐに乗った日向と山口、渋々と言った感じで近づいた来た飛雄。ただ、月島に関してはすでに入眠スタイルだったため、みすずはそろりと近付くとその布団をひっぺがした。
「ちょっと、何するのさ!」
「UNO!やろう!ね?」
「修学旅行じゃないんだから…明日も朝早いし寝かせてくれない?」
「やだー!蛍くんもUNOやろーよー!」
月島の腕にしがみ付いてぐいぐい引っ張るものだから、その柔らかい感触を感じてしまい月島は大きなため息をついた。
置いてあった眼鏡を仕方なく付けて、分かったから離れて、と仕方なく言って、仕方なく輪に入った。
「よーし!絶対1番なるもんねー!」
「は?1番になるのは俺だ」
「飛雄くん私に勝ったことないクセに」
「ぐっ」
「おーおーお前ら楽しそうじゃねぇか!」
「俺らも混ぜてくれよ!」
「龍センパイ!夕センパイ!ぜひ!」
ひょっこり顔を覗かせた田中と西谷を入れて、UNOが始まった。
「夕センパイ髪おろしてるの、いつもと違ってめっちゃかっこいいですね」
「かっ、?!えっ、あ、え!あ、ありがとな!みすずはなんか、えろ」
「さっさと配って」
「さっさと配れボケ」
「わお 息ぴったり」
その先は言わせまいと、飛雄と月島の声が重なったことにみすずは驚いて、何も気にせずカードを配り始めた。
「罰ゲーム何にする?」
「忠くんめっちゃ楽しむつもりだ!」
「…明日ジュースおごり」
「月島ァ、先輩もいるんだぞォ?」
「勝てば良いんですよ、勝てば」
「くっそ生意気なやつめ…!!」
「じゃあ、それで!じゃーんけん」
◇◇◇
「で、なんで言い出しっぺが最初に寝てるの」
白熱した戦いは3試合までおこなわれたが、その全てを1抜けしたみすずは延々と続く3試合目を見ていられず、いつの間にかころんと布団の上に寝転がっていた。
ちなみに最下位争いをしている日向と影山は未だにぎゃあぎゃあ騒いでいる。
「うっかわいい…!寝顔まで天使ちゃんかよ…っ」
「龍…!俺なんか、見ちゃダメなもん見てる気して来た……!!」
「先輩たちってウブですよね」
「ハァッ?!月島何ニヤニヤしてんだコラ!」
「コラ山口!何撮ってんだ!!」
「え、だって可愛くてつい……」
「「先輩に送りなさい」」
「えっ、あ、え、ハイ」
「て言うか起きてくれないと困るんだけど」
自分の布団の上で丸くなるみすずを見て、また大きなため息が出た。
警戒心ってものが備えられずに生まれて来たのかコイツは。男しかいないのによくこんなとこで、スヤスヤ眠れるよ全く。
と思いながら手を伸ばして揺すり起こそうとして、さっきのことを思い出してしまった。あの、やわらかな、感触。
「っ僕はバカなの?」
「えっ、ツッキーどうしたの?」
「……なんでもない」
「おーいお前ら、いい加減寝ろよ」
「そーだぞ、明日も早いんだからな…ってみすずちゃん?」
「なんか寝とる」
いつまでも起きている1年を注意しに来たらしい3年生たち、主に澤村の声を聞いてげっと青ざめてすぐに静かになった日向と飛雄。
菅原は丸くなってすやすや眠るみすずを発見し、ひょこひょこと近寄ると、東峰もなんとなくその後を追った。
「うわぁー寝顔も天使、かわいい」
「ったくみすずは…散々注意したのに」
「大地なに言ったの…」
「なんで旭がビビってんだよ。いや、泊まるって言うから一応みんな男なんだし、気を抜くなって10回くらい」
「たぶん、気を抜くな!の意味が分かってないんじゃない?」
「確かに、気ィ抜きすぎだなこれは」
わらわらとみんなに囲まれても一向に起きる気配のないみすずに全員が顔を見合わせる。
誰が、みすずを、部屋まで運ぶか……。
全員かって出たい役割なだけに、誰がどう、何を言い出すか、推し量っていた。ごくりと息を呑んで、誰かが息を吸った瞬間。
「あーあー…こんなことだろうと思ったよ」
「来てみて正解でしたね」
「「「「チッ」」」」
「おー誰だ今舌打ちしたやつ、明日サーブ練3倍やらす」
呆れた顔した繋心と武田先生が現れた。
1人暮らしの事情を知っている繋心はなんとなく、こうなっているのでは無いかと思い、半信半疑で見に来てみたら案の定だったというわけだ。
「おら、さっさと部屋戻れ!そんでさっさと寝ろ!この馬鹿は俺が連れてく」
「「「「!」」」」
「悪かったなァ」
ニヤリ、と笑ってみすずをいわゆるお姫様抱っこしてみせた繋心。
あぁ、わざとだ、大人気ない…と全員が思った。
「お前らにゃあ、まだ早えーよ。んじゃ、おやすみ男子高校生たちよ!」
「み、みんなおやすみ〜」
パタン、と閉じられたとドアに全員が大きなため息を吐くのだった。
「にしても、よくみすずさんが1年生の部屋にいるって分かりましたね」
「あー…コイツ事情があって1人暮らしだろ、だから誰かがいる夜っつうのが多分嬉しいんだよ」
「なるほど…だとすると、明日も」
「明日は先生が抱えてくか?」
「へっ、いや、ぼ、僕は…!!」
「じゃあその羨ましそうな顔すんのまじでヤメテ」
第1回天使争奪戦
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