天使と2人のセッター





「みすずちゃん、何飲むの?」

「孝支センパイ!」

「当ててあげよっか。うーん……いちごミルク!」

「ざんねん、メロンソーダです」

「うわー!惜しい!」

「……惜しい??」



お昼休憩の余った時間に水とお茶以外のものが飲みたくなって自販機まで飲み物を買いに行くと、孝支センパイに声をかけられた。

惜しいの基準はよくわからないけど、ぽちっとメロンソーダのボタンを押すと、ぼんっとペットボトルが降って来た。しゃがんで取って、孝支センパイに自販機を明け渡したけど、どうやら目的は自販機じゃ無さそうだった。



「みすずちゃんだったら、音駒の練習試合…スターティングオーダーどうする?」



真剣な眼差しの孝支センパイ。

そんな風にしなくても、私は嘘つかないのに。バレーボールで遠慮はしない。ふ、と息を吐いて階段に座るとセンパイも隣に並んだ。


タブレットを膝の上に置いて、私が作った様々な組み合わせのオーダー表を見せる。



「私だったら、と言うより今の烏野で1番可能性のあるスターティングオーダーはこれです」



セッターが影山飛雄になっているオーダー表を見せる。

日向翔陽をスパイカーとして活かすなら影山飛雄は必要だし、今の影山飛雄の才能を最大限活かすなら日向翔陽が必要だから。2人がいないパターンだって沢山ある。今後はそれでも戦えるようにしていかなきゃいけないのは確かだ。でも、今の烏野の攻撃力最大パーティーは、これしかない。



「うん、だよな。これが俺も最適だと思う」

「…私に何が聞きたかったんですか?」



孝支センパイは分かってる。

飛雄くんは天才だけど努力を怠らない。そんな人に現時点で敵うはずがないこと。影山飛雄を正セッターにすることで、烏野が勝てる確率がぐんと上がること。それ以外にもいっぱい。

でも分かってるなら、どうして私にスタメンの確認をしてまた傷付く様なことをするんだろう。



「うーん、答え合わせ…かな」

「答え、あわせ?」

「そう。みすずちゃんはさ、3月の大会と4月から今日までの1ヶ月間ずっと俺らのバレーボール見てくれてるでしょ。そんなみすずちゃんが出した意見と同じってことは、俺の選択は間違ってないんだなって」

「何の選択ですか…?」

「俺は、俺のやり方で戦う」



さあっと、風が吹き抜けた。

いつもの優しい笑顔だけど、決意とやる気に満ちた表情に胸がどきっとした。孝支センパイは孝支センパイのやり方で。なら私は、私が孝支センパイのために出来ることは全部やろう。



「孝支センパイがコートに立つ時は、影山飛雄とのただの交代じゃありませんからね!」

「どういうこと?」

「点を取りたい時、空気を変えたい時……孝支センパイがコートに出る時は攻めのバレー。何かして来るって相手に思わせましょう!」

「おう!」



ぱしっと拳を突き合わせた。

バレーボールは1人では出来ない。
後ろにこんなカッコいいセッターが控えてるなんて、感謝するんだね影山飛雄くん!!


そのまま私が考えている戦略や孝支センパイはこんな技が向いていることなどなどを伝えていくと全部興味深そうに聞いてくれた。

どれもすぐには出来ないことだけど、練習すればきっと必ず。



「みすずちゃんって頼もしいね」

「そうですかね……でも、私が出来ることなら何でもやりますから、何でも!言ってください!」



私だってやる気に満ちています!と主張するためにガッツポーズをして頷いて見せる。

すると孝支センパイは軽く笑って頭を撫でてくれたりする……はずだった。



「こ、こ、孝支センパイ……?」

「ニワトリみたい」

「だっ、て…急に」

「みすずちゃんに出来ることならって言ってたから、ちょっとだけこうさせて欲しい」



孝支センパイの顔が、私の肩に埋まる。
頬っぺにあたる髪が少しくすぐったい、首にかかる息もくすぐったい。

でも、言質取られちゃったから、これで孝支センパイの気持ちが落ち着くなら、私の肩くらいいつでも貸し出しましょう。すごく、ドキドキするけど。



「…頭なでなではさすがに恥ずかしいなぁ」

「あっ、ご、ごめんなさい、つい…!!」

「んーん!元気と勇気もらった!ありがとう」



自然と孝支センパイの頭に伸びていた手を引っ込めると、いつもの爽やかな笑顔が私を見つめた。



「みすずちゃん、いい匂いする」

「……変態っぽいですよセンパイ」





◇◇◇



「ちょっと飛雄くん、髪はちゃんと乾かしてください」

「ほっといたら乾く」

「だめです」



お風呂上がりの飛雄くんに出会した。

まだほんのり髪が濡れている。なんていうか、あれですか、水も滴るいい男的なやつですか…。その前に風邪を引くので髪はちゃんと乾かしてください。



「はい、ドライヤーしますよ」

「は?お、おい…!」



朝のお母さん気分が私の中にまだ残っているのか、飛雄くんの手首をぐいぐい引っ張って部屋へと連行する。

合宿所なので、マイドライヤーを持参しているのですよ!



「(ヤバいまずい何だこの状況、俺が悪いのか?俺のせいか?見つかったらやばくねぇか、見つからなくてもやばくねぇか、俺大丈夫なのか?!)」

「突っ立ってないで、座ってくれないと届かないんですけど…」

「……」



なんか難しい顔しながら座った飛雄くんの背後に立って、その黒髪にドライヤーをあてる。

熱くないように気を使いながら髪に指を通す。羨ましいくらいにサラサラだなあ。私はちょっとくせっ毛だからなあ。



「…なんか、気持ちい」

「ん?なに?」

「っ、べつに」



ドライヤーの音がうるさくて何も聞こえないけど、なんかちょっと機嫌悪くなった気はする。

まあいいや。にしても、いつもは上にある飛雄くんの頭が私より下にあるのは、なんだか新鮮だ。それにやっぱり可愛い。私どうした?母性本能目覚めちゃったのかな。



「うん、このくらいかな」

「……さんきゅ」

「ほんとに髪サラサラだね、触ってて気持ちいよ〜」

「お、い…もう終わったならやめろ!」

「わ、あっ」

「!、わり」



髪を撫でていた手を掴まれて、ぐいっと引き離された。

私が思わずバランスを崩して転びそうになったところを引き込まれて、座っている飛雄くんに抱きつく形になってしまった。




「ごめん飛雄くん…すべっちゃった」



ゆるりと見上げると、ぱちっと飛雄くんの目とかち合った。

惹き込まれそうになる。と言うか、近い、し、近付いて来てる気がする。ま、待って、待って、飛雄く。

ぎゅっ、と目をつぶった時、バチンっと大きな音がした。

びっくりして目を開けると頬っぺたが赤くなった飛雄くんがふるふると首を振っていた。もしかして自分の頬っぺた、叩いたの?



「…俺いまみすずに」

「わーわーわー!!!なに!?何も無かったよ!何も無かった……!!」

「お、おお…そ、そうだよな……」



ギクシャクと飛雄くんと少し離れた場所に座る。

胸が、ドキドキしてる。まさか、飛雄くんにキスされそうになる、とか。気のせいだよね、勘違いだよね。落ち着けわたし。



「みすず」

「な、なに…」

「やっぱちょっと、抱き締めてえ」

「ひゃ」



すっぽりと飛雄くんの腕の中に収まってしまった。

なにこれどういう状況。頭で理解するより先に、背中に回った腕に優しく力がこもって、顔が熱くなって来る。飛雄くん、なんかまた大きくなったな…。そうだ、飛雄くんは大きな子供だと思えば良いのか。私はお母さん、私はお母さん……。



「…コートに、立ちたい」

「!」

「コートに長く、立っていたい」

「飛雄くん…」



ああ、飛雄くんも不安、なんだ。

明日スターティングオーダーの発表だから。飛雄くんは自分がそこに入れるか不安なんだ。誰もが選ばれると思っていても当の本人は、自分を驕りはしないし、何よりバレーボールが大好きだから。


全く…今日の烏野セッターさんたちは、甘えんぼちゃんですか。

仕方ないから、大サービスしてあげよう。
ぎゅっと抱き締め返して、背中をゆっくり規則正しくぽんぽんとたたいてみる。



「飛雄くんは、飛雄くんに出来ることやって来たんでしょ」

「おう」

「まあ、今回ダメでも練習試合だし」

「おい」

「私は飛雄くんがコートにいようが、ベンチにいようが。バレーボールをしてる限り、ずっと期待し続けるよ。飛雄くんに止めろって言われてもね」

「……言うわけねーだろ」



ボケ、と聞きなれた暴言が降って来た。

ムカついたので、思いっ切り力を込めて抱き締めると鼻で笑われてやり返された。



「む、はっ、く、ぐるじい…!!」

「…お前、なんか、やわらけーな」

「なっ…誰がデブだ!!もう離れろ影山飛雄のボケ!!!」




天使と2人のセッター


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