菅原孝支に消毒される





「「「「お疲れさまでした!」」」」


烏野はついぞ1度もセットを取ることなく、練習試合は終わった。

烏野だって決して弱くない。1度もちゃんとした試合をしたことの無いチーム編成だし、顔を合わせてから間も無かったけど、強力な攻撃はすべて機能してた。けど、勝てなかった。

音駒高校、強かった。チームとして、すごく強かった。



「今日はありがとう、クロの無理なお願い聞いてくれて」



片付けの途中、研磨くんが声を掛けてくれた。

たしかに少し不本意ではあったけど、猫又監督も優しかったし、音駒のチームワークを間近で見られたのは大きい。



「ぜんぜん!すごく楽しかった、音駒すごく強いね」

「…みすずのアドバイスもすごく参考になった」

「それなら良かった。また試合出来るの楽しみにしてるね」

「そうだね、その前にゲームやろう」

「うん、それはもちろん!やるつもり!」

「…!」

「?」



研磨くんが急にびくりと肩を震わせた。
何?と思って後ろを見ると、飛雄くんが鋭い眼光を研磨くんに向けていた。しかも何かぶつぶつ呟いてる。いや怖過ぎるよ飛雄くん。

そろりと研磨くんは私の後ろに隠れた。



「…襲われる」

「確かに、あれはホントに襲いそう。こら飛雄くん、睨みつけたら失礼でしょ!」

「なっ、に、睨んでない…!」

「はい、早くお片付けしてください」

「うっ…」



そう言うと渋々手にしていたネットを片付けに行った。



「…飼い主みたいだね、みすず」

「え、それなんかやだ」

「みすずチャン!お疲れ!今日はありがとな」

「お疲れ様です。こちらこそ勉強になりました」

「おお、堅苦しい。俺ってまだ警戒されてる?」

「冗談です。でもホントに勉強になりました!鉄朗センパイの攻撃カッコよかったです、ブロックも上手だし!」

「っ、え…な、名前……!」

「だって、呼んで欲しいんでしょう?名前で」



身長差を利用して下から覗き込んで見れば、少しだけ顔を赤くしている鉄朗センパイ。

胡散臭くて、軽い感じだなあって思ってたけど…あれ?意外と可愛い反応されてびっくりしてます。そのままにこっと笑うとフイっと顔を背けられてしまった。



「なに?みすずちゃんってば小悪魔なの?」

「皆して私のこと人外にするのやめてもらって良いですかね」

「みすずはどっちかって言うと天使でしょ」

「研磨!!お、おま、なんで……知っ、て?!」

「なに虎、急に入って来て意味わかんないこと言わないで」

「や、さっき…烏野の5番に聞いたんだよ……!みすず、ちゃんは勝利の天使って呼ばれてるって」

「龍センパイってば余計なことを、」

「勝利の天使。へェ、それ聞いちゃうとやっぱりうちのマネージャーになって欲しいな」

「天使でも悪魔でもありませんー!私、ニンゲン!!ほら、さっさと片付けますよ!!」

「「ハイ」」

「……やっぱり飼い主」

「研磨くん!!」




◇◇◇



片付けを終えて、主将同士、コーチ同士で挨拶し合っているところを見て頭を抱える。

笑顔なのに敵対心バチバチ過ぎるよ、怖い怖い。と夜久くんと突っ込んでいたら、ぱたぱたとうちの天使が駆け寄って来た。



「衛輔センパイ!」

「お、みすず思い出した?」

「ハイ、ナチュラルにずっと着たままでした」



あー、そうだ。
夜久くんのジャージ着てたんだっけか、確か。

この前の練習試合の時も何故か青城の誰かのジャージ着てたし、この子は本当に浮気性なんだから。



「すみません、寒くなかったですか?」

「おう!平気平気」

「すみません、うちのマネージャーが」

「いえいえ。色々アドバイスしてくれて助かりました」

「アドバイスなんてとんでもない!衛輔センパイ本当に超カッコよかったです!」

「はは、みすずそればっか。でも嬉しい、ありがとな」



ち、超カッコいい?!
俺もそんなこと言われたことないのに!!しかも頭ぽんぽんされて、そんなにへにゃへにゃ笑わないで、みすずちゃん!可愛すぎるべ!

え?もしかして夜久くん、みすずちゃんのこと狙ってます?



「そうだ…連絡先交換とか」

「はい、良いですよ!」

「まじ?」

「ハイ、もちろ」

「はい!みすずちゃんそこまで!もうみんな待ってるから行くよ〜!」

「へ、孝支センパイ?!」



二人の間に滑り込んで、みすずちゃんの両肩を持ってくるりと反転されるとそのままバスの方へと押して行く。

わたわたと慌てるみすずちゃんを他所に、俺は顔だけ夜久くんを振り返って満面の笑みを返した。



「周りのガード怖すぎだろ…」

「やっくんのジャージ着せちゃったからね」

「めっちゃ良い匂いする」

「まじ?ずりー!なんで負けたんだ俺」

「運も実力のうちってな」

「はぁ?!喧嘩売ってんの夜久〜?」

「2人とも帰らないの?」

「研磨!お前もだからな!ずるいの!」

「なんの話」



やいのやいのしてるのを後ろ背に聞きながら、俺はなんか徐にジャージの前を開けちゃって、そのまま前にいるみすずちゃんを包み込んだ。



「ひゃ、孝支センパイ?!」

「消毒」

「え、どういうことですか」

「あ゛あーっ!!スガさんそれはズルいっす!!」

「ズルいってなんですか」

「先輩ですけど、でも、許せることと許せないことが…」

「なんだよ影山、お前抱き締めたことあるって言ってたじゃん」

「そ、それはそーっスけど……!」

「…ガード緩すぎでしょ」

「「スガぁ…やっていいこととダメなことあんだろうが」」

「うわ、大地と旭がハモってる」

「孝支センパイ」

「?」

「寂しくさせてごめんなさい」



そのままみすずちゃんが振り返ったものだから、顔が至近距離になって思わずドキッとする。

ふにゃ、と眉を下げて笑う顔はなんて言うか…母親みたいな感じだった。俺もしかして寂しくてこんなことしてると思われてる?いやいや違うでしょみすずちゃん。寂しさじゃなくて、これは。



「ヤキモチだよ、バカだなぁ」

「や、ヤキモ…ヤキモチ?」



ぱっとみすずを解放すると、何者かの手に寄ってすぐに目の前から居なくなった。

後を追うと、眼鏡の奥からキッと俺を睨む清水と目が合った。うわー、めっちゃ怒ってる。怖い。



「菅原セクハラ」

「韻踏まないで清水」




菅原孝支に消毒される


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