山口忠に助言する
「あと日誌だけだね」
「うん、黒板消しありがとう」
「どういたしまして〜」
みすずちゃんと日直になった。
いつも大体誰かといるから、2人きりになるのは初めてかも知れない。ツッキーの小学生の頃からの憧れの人だ。
恋愛感情は無いみたいだけど、最近のツッキーを見てると、そうなるのも時間の問題って感じがする。
見た目は何ていうか、ふわふわしてて、可愛らしい。正しく勝利の天使って感じ。親しみやすい可愛らしさと言うか。俺も田中さんまではいかないけど、女子と話すの緊張する方だけど、みすずちゃんは話しやすいんだよね。
たぶん、みすずちゃんのコミュニケーション能力の高さお陰なんだけど。
でも、その親しみやすさとか、可愛さからは、想像出来ないくらいみすずちゃんのプレーは完成度が高かった。もちろん、小学生中学生の頃の感想ではあるけど…本当に凄く、綺麗だった。
少年団の頃戦って、その後ツッキーに着いて何度か試合を見たけど、みすずちゃんの動きはスパイクを相手コートに打ち込むまで、音がしない。
まあ例えというか、そんな気がするだけなんだけど、静かと言うより本当に綺麗って感じなんだ。
だから、選手を辞めたと聞いた時は本当に驚いたし、それと同時に少しだけムカついたのも覚えてる。
俺には出来ない技術を沢山持ってるのに、そんな簡単に捨てるんだって。
「ん…?どうしたの忠くん」
「なんかみすずちゃんが羨ましくて」
「…なんで?」
「選択肢がいっぱいあるじゃん、選手としても試合に出られる技術はあるし、人を見る力もあるからマネージャーも向いてるし」
「そう、かなあ」
「俺なんて、1年で1人だけスタメンになれなくてさ…」
今日の出来事を書き込みながら、卑屈な言葉を発してしまった。ああ、俺はみすずちゃんにも嫉妬してたのか。格好悪いな。
こんなことみすずちゃんに言ったって嫌な気持ちになるだけなのに。
顔を上げて謝ろうとしたら、予想外にも優しい笑顔が俺に向いていた。
「なんかこう忠くんって欲がない感じがしてたから、本音っぽいの聞けて嬉しい」
「よ、欲がないって…」
「いつも蛍くんのこと自慢げに話すからさ。仲良いんだな〜とは思うけどね」
「…ツッキーは俺の憧れだから」
「2人っていいバランスだよね。いつか連携とか見られたら興奮しそう…!」
「興奮って…みすずちゃん」
「ねえ、忠くん」
「ん?…っ」
名前を呼ばれたと思ったら、そのきらきら輝く瞳に捕らわれた。
選手だった頃は見せなかった表情。
中学の頃、観客席から試合を観ている時にしていた表情。期待に満ちたその瞳に俺が映る時が来るなんて思わなかった。
ああそっか、そうなんだ。
みすずちゃんは俺にだって、期待してくれるんだ。
「スタメンじゃなくても試合に出られる方法、あるんじゃないかな?」
「どういう…あ」
「うん。すぐに身になるものじゃないけど、挑戦して損は無いと思うよ」
にっこり、と言うより何かを企んでるような笑顔を浮かべるみすずちゃん。新しい策を見つけたような、そんな感じ。
本当にバレーボールに貪欲なんだな。
「…ジャンプフローターサーブ教えてくれる?」
「え……なんで私がジャンフロ出来るって知ってるの?皆の前でやったこと無かった、はず」
「え゛っ、そそそあツッキーまだ、あっ、あーっ」
「……忠くん大丈夫?」
「えっと、その…うん、わす、忘れてほしい…無理だと思うけど」
「……」
「や、やめてその目〜…」
「…私より適任者がいると思うなぁ、センパイに。」
「先輩…?あ!そっか!」
「忘れてあげるから私は教えません」
ちょっとむくれて俺の手元から日誌を奪うと、完成していることを確認して、教卓の上に置いた。
「早く部活行こ忠くん」
「う、うん…!」
「ツッキーに取調べしよ」
「やめて!怒られる!!」
あんなこと言いつつも、きっとみすずちゃんも教えてくれるんだろうなぁ。だってみすずちゃんは、勝利の天使だからね。
山口忠に助言する
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