天使は烏に期待する
「みすずちゃん、おつかれ」
「ひゃ」
ぴと、と頬に冷たい感触。
びっくりして顔を上げると、潔子センパイが優しい笑顔でペットボトルを差し出してくれた。女神すぎる。
「潔子センパイ…!ありがとうございます!あ、ビブス任せちゃってすみませんでした」
「良いの、みすずちゃんはみすずちゃんにしか出来ないこと、やって欲しいから」
個人練習は皆に付き合っているから、どうしても潔子センパイに色々と任せてしまっているけど、こうして私が後ろめたくならないように、いつも背中を押してくれる。
私もいつか、潔子センパイみたいになりたいな。
「あ、それでね…みすずちゃんにちょっとお願いがあって」
「私に出来ることならなんでも!」
「ふふ…あのね、お裁縫得意だったりする?」
「裁縫…?」
潔子センパイが何かを企んでいらっしゃる。
裁縫は人並みくらいだろうか。得意でも無いし、不得意でもないけど…頷くか頷くまいか迷っていたら、先にその内容を教えてくれた。
「そう言うことでしたら全力でお手伝いします!」
「じゃあ今度の水曜日から、私の家でやろう」
「え、き、き、潔子センパイのお家ですか…?」
「うん、でもみすずちゃん自主練に付き合うこともあるだろうし、毎日じゃなくて大丈夫だからね」
「いや毎日潔子センパイのお家に行けるなら自主練断ります」
「こら」
「あいた」
冗談を言ったら笑ってチョップされた。
最近スキンシップ多くて、私はとても嬉しいです…!思わず頬がゆるゆるになってしまう。
「あー…あの空間マイナスイオン出てる気がする」
「微笑む女神、はにかむ天使ちゃん…!最高かよッ…!」
「龍…俺は、死んだのか…?」
「現実だノヤっさん…!!あそこは天国だが、ここは現実なんだ…!」
「まあ癒される気持ちは分かるな」
「みすずといると、清水もよく笑うよなぁ」
「持って帰りてぇ」
「菅原セクハラ」
「韻を踏むな」
◇◇◇
「ホントだ、すげー!写真でけぇ!」
「だろ?」
バリボーを囲んで騒いでいる夕センパイたちに、皆が集まっていたので私もその中に混ざってみる。
開けたページには今年の高校生で注目されている3人の高校男子選手の写真が大きく載っていた。その1人に、宮城の白鳥沢の選手がいるらしい。うん、若利くんだろうなあ。
「白鳥沢って影山が落ちたとこ!」
「うるせぇ!!」
「「「ぷふっ」」」
「なに笑ってんだよお前ら!」
翔陽くんの一言に思わず吹き出すと、飛雄くんの鬼の形相がこちらを向いた。
ちなみに一緒に笑ったのはいつの間にかお隣に並んでいた蛍くんと忠くんである。2人とも頭良いもんね。
「牛若っつーのは、県内で間違いなく今No.1エースの牛島若利だ!」
「うん、これぞ正にエースって感じだよなぁ」
「「「……」」」
「おぉいっ、なんでこっち見てる?!」
比べられた旭センパイが落ち込んでしまって、夕センパイが慰めている。ほんとにへなちょこだなあ、旭センパイ…どっちがセンパイかわかんないですよ。
「影山、こんな奴いるとこ行こうとしてたんだなぁ」
「そんでアレだろ?超高校級エースに向かって、もっと早く動け下手くそ!とか言っちゃうんだろ?」
「言いませんよ!」
「っでもよー!みすずはなんで白鳥沢行かなかったんだ?」
「へ」
ここで私に話が振られると思ってなくて、変な声が出た。
夕センパイの一言に、みんなの視線が私を向く。ど、どうして皆さんそんなに興味津々なのでしょうか…!そもそも私が及川徹のバレーに惚れていることは、周知の事実では?と言いつつ、入学したのは烏野だけど。
「確かに…もちろん及川も凄い選手だが、牛島はバリボーにも載るくらいの選手だからチェックしてただろうし」
「日向を気に入って烏野に来たのは聞いたけど、強いバレー観るなら悔しいけど白鳥沢だべ?」
「そういやお前…白鳥沢にはあんま興味無かったよな」
興味が無かったわけじゃない。
もちろんチェックもしていた。けど、白鳥沢のバレーはなんて言うか、ゾクゾクしない。1人の圧倒的な存在感。もちろん周りのメンバーに実力が無い訳じゃない。だけど、彼がいれば勝てると言う皆の思いが伝わってくるから、好きじゃない。
後まあ単純に。
「苦手なんです、牛島若利」
「「「え゛」」」
「もしかして…知り合い?」
「…はい」
「白鳥沢にまでナンパしに行ってたのか…?!」
「そんなわけないでしょ!親同士の繋がりで知り合いなの」
「マジかよ…!」
「みすずは顔が広いんだな」
「まさかキミ、白鳥沢にも見学とか行ってたんじゃないの?」
「まあ、若利くんに呼ばれて何回か。勧誘もされてたけど、私は白鳥沢のバレーより青城のバレーが好きでしたし…何より今は、烏野の、みんなのバレーが好きですから」
まとめになってない、まとめになっちゃったなと思って笑ってごまかしてみたら、感動した!!と先輩方が泣き始めた。あらら。でもまあ、嘘ではない。
私は烏野のバレーが大好きになっちゃったから。
烏野高校男子バレーボール部で全国に行きたいから。
「若利くんなんて、ぶっ倒しちゃいましょう!」
「こらこら、白鳥沢だけが強敵じゃねぇだろ。みすず、タブレット」
「らじゃです!」
ぴしっと敬礼してみせたら、わしわし頭を撫でられた。
繋心くんと武田先生が色々リサーチしてくれた情報と、私がこれまで観戦してまとめたデータをあわせた資料をタブレットに映す。
警戒すべき学校は、守りと連携の和久谷南、鉄壁の伊達工業、そして青葉城西と王者白鳥沢。
昨日繋心くんと資料を作りながら、作戦会議をした。もちろんすぐに出来るようになるとは思ってないけど、練習を重ねればきっと攻撃の手として加えられる。烏野は1.2年生主体のチームだから、安定した攻撃は難しい。でもだからこそ、新しいことに沢山挑戦出来る。
「楽しみだなぁインターハイ」
烏野がどんな風に進化するのか、楽しみだ。
天使は烏に期待する
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