牛島若利は後悔させたい





「久しぶりだな」

「噂をすればなんとやら、だね」

「? 何のことだ」



家の前によく見知った顔が立っていた。
本日話題になった牛島若利くん、その人である。



「ご飯は?食べた?」

「まだだ」

「寮の門限は?」

「あと2時間くらいだな」

「…上がってどうぞ」



まあ、そのつもりでここに来たんだろうとは思うけど。

そう思いながら家のドアを開ける。
勝手知ったる若利くんはさっさとキッチンに行って冷蔵庫から水出して飲んでた。一応、他人の家なんですけど!とは言え若利くんとは本当に小さい頃からの仲だから、注意する気も起きない。


それよりも家に人がいる安心感みたいなものがあって。



「どうした」

「んーん、べつに」



なんで若利くんが苦手なのか。

試合中誰よりも存在感があって、皆に頼りにされて、実力も十二分にあるのに驕ったりしない。烏野にも天才はいるけど、若利くん以上にバレーボールの神様に愛されてる人をまだ見たことがない。

そんな完璧な人なのに。うーん、完璧だからこそ、だろうか。



「烏野はどうだ」

「うん、楽しいよ…みんなは元気?」

「ああ、会いたがってたぞ」

「まあもう高校生になっちゃったから、見学とか行けないなあ」

「俺は構わない」

「若利くんが良くてもね」

「? 俺は白鳥沢の主将だ」

「知ってますケド!」



天然無自覚な強引さと言うか。
ただ事実を伝えてるだけだのスタンスが、たまに凄く刺さる時があって、それが私は苦手なのかも知れない。

本当のことを言われるのって、怖いから。



「それは、バレーシューズか?」

「あ…うん」

「バレー部に入ったのか」

「うーん…まあ、ね」

「そうか、やはりお前は選手でいるべきだと」

「……ごめん、選手じゃないの」



箸が止まる。

若利くんには、私が選手を辞めた時からずっともったいないから続けるべきだと言われていた。それから。



「…マネージャーか?」

「……」

「マネージャーをやるなら、白鳥沢に来いと言ったはずだ」



私が頑なに選手に戻ることを否定したら、今度は白鳥沢でマネージャーをやって欲しいと言われていた。だけど、マネージャーになるつもりも無かったから、それも断っていたのだ。

なんとなく、怒っているのが伝わって来て、顔を上げづらい。



「何故だみすず」

「…最初はやるつもりなかったの、だけど」

「何がお前をそうさせた」

「……」

「みすず」



若利くんの大きな手が、私の肩を掴む。

ゆっくり顔を上げて見れば、いつもと変わらない表情に見えるけど、なんとなく悲しそうに見えて。



「烏野には、お前のその期待に応えてくれるだけの選手がいるということか」

「…うん、そうだよ」

「そうか」



ぱっと手が離れて、それから何も言わずにまたご飯を食べ始めた。

若利くんは期待しなくても、もう完成されたバレーボールをやってしまうから。見ていても、ドキドキしないのだ。その先の勝ちが見えてしまうから。そう言う目線で見てしまうから、私はマネージャーをやりたくなかった。だってそれって、ただの、ファン目線だから。



「みすず」

「なに…?」

「後悔させてやる」

「え」

「白鳥沢に来なかったこと、後悔させてやる」

「っ、」



ギラギラした目が私を射抜く。
思わずどきりと心臓が跳ねた。ああ怖い。全国への壁、高すぎる。



「美味かった、ごちそうさまでした」

「はい、おそまつさまでした」

「また来る」

「良いけど…来る時は事前に連絡くれますか」

「携帯を持ち歩いていない」

「なるほど、突然来ようと思うわけだね…わたし帰って来なかったらどうするつもりなの」

「外泊ということか?まさか、恋人でも出来たのか」

「出来てませんけども!友達の家かもでしょ!」

「出来てないなら良い」



食器を片付け終えて、玄関まで若利くんをお見送りする。

走って帰るのか…と言うかロードワークのついでに寄ったのか、軽くアップしている。ほんとタフだなぁ。



「みすず」

「んー?」

「…お前がやりたいことをやればいい」

「若利くん、」

「さっき言ったのはただの俺の我儘だ。勿論、後悔させるつもりではいるが…お前が楽しそうにしているのが1番良い」



ぽんっと、今度は頭に手が乗った。

それが心地良くて、もらった言葉が嬉しくて、思わずはにかむと、若利くんからもふと笑いがこぼれた。



「またね、若利くん」

「ああ、またな」




牛島若利は後悔させたい


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