天使はビッグサーバーの予感
「みすず、みすず!れせぷしょんしたい!」
「? どうして私に…」
「みすずのサーブ!見たいから!」
自主練タイムになって、翔陽くんが真っ直ぐ私のところに駆け寄って来るものだから何事かと思えば、そんなことを言い始めた。
「俺も俺も!」
「普通に見てみたいな」
「えぇ…ネット高いから入らないかもですよ…」
「ネット無しで良いんじゃない?」
「孝支センパイまで、」
「へぇ。あのサーブもう打てないんだ?」
「…その顔で言われるとなんか悔しい」
蛍くんと忠くんがニヤニヤしている。
ソウデスネ!あなたたち見たことあるんですもんね!バレてからの開き直りが早すぎませんかね?!
とにかくなんかすごく期待の目が向いちゃっている。そんな、飛雄くんみたいなサーブは打てないけど。
「翔陽くん」
「っ、な、なに…」
「ちゃんと取れるまで打つからね」
「ひっ」
ボールを構えて、翔陽くんを見据えると青い顔をしている。
そりゃあ、やるならとことんまでやらなきゃ。勝負を挑まれたのだから、負けるつもりはないわけですよ。さすがにセンパイたちには拾われると思うけど、1年ズには負けたくない。
「オイ」
「…なに?」
「お前…みすずのサーブ見たことあんのか」
一方、飛雄は月島の言葉に違和感を覚えていた。
中学から一緒の自分でさえ見たことの無いみすずのサーブ。それを、「あの」と言ってのけた。見たことがあるのか…?ハッタリか?いや、みすずの反応を見るに多分、本当のことらしい。
そう思った時にはもう、月島に声をかけてしまっていた。
「へェ、王様はマネージャーのサーブ、初めて見るんだ」
「あ?お前そんな、見たことあるみてーな言い方、」
「あるよ」
「あ?なんでだよ」
「なんでだろうね〜?」
月島のこの顔、クッソ腹立つ…!!
てことはなんだ、俺がみすずのスパイク見た日よりも前から知ってるってことか…?つか、そうなると入学前から知ってんのかよ。でも知り合いじゃなかったよな…?なんでだ?
「男の嫉妬は醜いよ、王様」
「ハァッ?!嫉妬なんかしてねーよ!」
「ふーん?」
「翔陽くん!行くよー!」
「おす!」
「…チッ」
結局コート内で準備し始めたみすずは、ボールを何度かバウンドさせてから手の中に収めた。ネットの向こうで日向が嬉しそうな顔をして待ち構えている。
フン、月島は気に食わねーけど、折角のみすずのサーブ、見逃す訳にはいかねぇ。なるべく月島を視界に入れないようにしよう。
みすずは1度息を吐くと、高めのサーブトスを上げた。こいつ…、ジャンプサーブ打つのかよ。
「「「おお…!」」」
「ちょっと!翔陽くんまで関心してる場合じゃなーい!!」
「ハッ…そうだった……!すげー綺麗だから、つい」
「なに言ってるの」
「いや分かるぞ翔陽…あれは初見だと見惚れて返せねぇな」
「なんだよ、みすずちゃんもオールラウンダータイプですか?!」
「なんでキレてるんですか孝支センパイ」
この前、俺のトスでスパイク打ってた時もそうだった。
その流れる様な動作は、ボールが相手コートに返るまで音が全くしない。こいつ、本当になんでバレー辞めたんだよ…もったいなすぎんだろ。
「王様は知ってんの?マネージャーがバレー辞めた理由」
「は?それは…及川さんだろ」
「…そうだよネ。プレーすら見たこと無いんだから、知ってるわけないか」
「違うのか?」
「さぁ、僕も詳しくは知らない。ただ、もう1回くらいは試合観たかったって思ってるだけ」
みすずを見る月島の表情が何となくいつもと違って見えて、飛雄は眉をひそめた。
同中だった自分よりも、みすずのことを知っている事実に腹が立った。確かに飛雄はみすずがバレー部の追っかけになってからのことしか知らなかったし、それ以上のことに興味が無かった。自分のバレーにみすずの期待を向けて欲しいだけ、ただそれだけだった。烏野に来て、それが叶ってからと言うもの、飛雄はみすず自身に興味が湧いて来ていたのだった。
だからこそ、月島に嫉妬に似た感情を抱いている。本人に自覚があるかはさておき。
「わ、さすが夕センパイ!ジャンフロ普通に拾われた…!」
「いやギリギリだったぞ、今」
「ジャンフロも出来んのかよ!」
「…なんかマネージャーしてもらってるの申し訳なくなって来たな」
「確かにな、もったいないの一言に尽きる」
「アイツのやりたいことがお前らのサポートなんだから、気にしなくて良いんじゃねーの?」
「「「コーチ!」」」
「自分の道くらい自分で決められる女だろ、みすずは」
繋心の言葉にその場にいたメンバーはみすずに顔を向ける。
確かに神崎みすずは、見た目こそふわふわこそしているが意志が弱いわけでも、芯がないわけでもない。どちらかと言えばしっかりしている部類だ。それに、選手としても優れていたのだろうけど、普通のマネージャー業以上のことをやってのけるサポート力にも長けている。
今さらみすずに選手に戻った方が良いとは、言えないし言いたくないのが皆の本音だ。
「そうするしかなかったなら、別だと思うけど」
「あ?何か言ったか」
「別に」
天使はビッグサーバーの予感
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