取ったのか、取られたのか






「クロさん……」

「なんだよ山本、青い顔して」

「研磨がおかしくなりました」

「…はぁ?」



自主練を終えて着替えようと部室に行くと、入った途端山本が研磨を見て怯えていた。

当の本人はと言うと、自主練は早々に切り上げた癖に端に座り込んで、新しく買ったゲームをやっている。…特におかしいところは無い、おかしいのはお前じゃねーか山本。




「だって!ずっとブツブツ話しながらやってるんです!」

「ほぉー…」



確かに、何を言ってるかまでは聞き取れないが、口が動いているところを見ると、何か話してるらしい。

ああ、もしかして。



「電話しながらゲームしてるんじゃねぇの?」

「えっ、誰とですか」

「それは知らんけども」



やってるのはモンスターをハンターするゲームだ。

確かにオンラインプレイもあったと思うけど、わざわざ電話しながら話すような相手…いたか?幼馴染みの俺が知らないってことは、最近知り合ったのか?



「あ」

「え?」



ぴん、と1人顔が浮かんだ。

山本を退かして、研磨の手元を覗き込むと、見た事のあるニックネームが見えた。



「なに」

「みすずちゃんヤッホー」

「あ、ちょっと」



イヤホンのマイク部分に声をかけると、研磨の眉間に皺が寄った。おー、絶対ビンゴ。声は聞こえないけど。

アプリゲームのニックネーム、Spicaだったもんなぁみすずちゃん。



「みすず?!……っは、あ、て、天使?!」

「うん…いま、部室にいるから……。だって早くやりたかったし、」

「オイオイなに話してんのキミたちィ」



可愛いこと言ってる研磨にちゃちゃ入れると、大きなため息と共にスマホからイヤホンを引っこ抜いてくれた。



「…スピーカーにしたよ」

『えっ、急に、え、あ、お、お疲れさまです…?』

「みすずちゃ」

「ててて天使ちゃん……ッ」

「オイ山本遮ってんじゃねぇヨ」

『ふふ、鉄朗センパイと虎センパイだ!おひさしぶりです!』

「おー、つってもこないだ会った気分だけど」

『たしかに!』

「ん?お前ら何集まってんの?」

「ゲッ、やっくんが来ちゃった」

『衛輔センパイですか?お疲れさまですー!』



チッ…もっとみすずちゃんとゆっくり話したかったのにやっくんのタイミングな。

てかみすずちゃん俺より夜久に懐いてたから…心做しかさっきより嬉しそうな気がする。てか電話の声もかわいいなオイ。


「えっみすずちゃん?!なんで?」

『研磨くんと通話しながらゲームしてました!』

「研磨のヤツ、天使ちゃんと早くゲームしたいからって自主練サボったんスよ!」

「いや研磨のサボりはいつものことな」

「…疲れるし」

『すみません、大事な脳をお借りしてしまって』

「みすずちゃんは謝ることないよ」

『その声は海センパイ!』

「お、正解」



夜久と一緒に来たらしい海がしれっと入って来た。
みすずちゃん普通に馴染んどる。コミュニケーション能力ハンパねぇな。



『皆さん調子はどーですか?』

「いーい感じだ、烏野は?もうすぐ予選だろ?」

『こちらもいーい感じです。音駒との練習試合を色々と参考にさせてもらってます』

「クロがみすずのことベンチに入れたから…」

「俺のせいかよッ」

『その節は大変感謝しております…!』

「最初嫌がってたクセに!!」



俺は忘れてないぞ!
警戒心丸出しで、研磨が来た瞬間逃げる様に俺から離れて行ったことを…!そして研磨が臨時マネを頼んだ時は嬉しそうにしていたことを…!

俺だってみすずちゃんと仲良くなりてー…なんで宮城にいんだよ。




「ん?皆集まって何やってんスか?あ!研磨さんの!新作のゲームじゃないスか!」

「うるせーよリエーフ」

「てか、ゲームの話してないし、」

「えっ そうなんスか?じゃあなんでそんな密集してるんですか?暑苦しくないです?」

「誰が暑苦しいって?コラ」

「お前は暑苦しいから静かにしろ」

「スンマセン」

『…りえー、ふ?』



聞きなれない言葉だから、辿々しいみすずちゃんの声が聞こえて来る。(かわいい)

そうだよな、コイツ合宿行ってねーから会ってないもんな。じゃあ関わらなくて良くね?はい、どっか行け、お前はもうどっか行け。みすずちゃんの好みのタイプとかは知らんけど、とりあえずどっか行け。これ以上ライバルを増やすわけには…



「ん?なんか、女の人に呼ばれました?」



時すでに遅し!



「…今、電話してるから」

「電話?研磨さんの彼女さんですか!?」

「「「!」」」

「バッカ!ちげーよ!!」

「なんで夜久さんがキレるんですかァっ!?夜久さんの彼女スか?!」

「ちがいますー!夜久の彼女とかアリエナイ、アリエナイ!みすずちゃんにはこの黒尾鉄朗がお似合いヨ」

『誰の彼女でもありませんし、鉄朗センパイはちょっと何言ってるかわかりません』

「辛辣!」

「…電話の相手はこないだ宮城で練習試合やった烏野のマネージャー。みすず、こないだの合宿には来てなかったけど、1年の灰羽リエーフって奴だよ」

『はじめまして、神崎みすずです!えと、リ、エーフくん?あってる?』

「え、う、うん…?はい…?」

『あ、私も1年生だよー!お名前的にハーフとか?身長高そう!』

「あー…194、ある!」

『でか』

「まー、バレーはへったくそだけどなー!」

『こないだの合宿はレギュラーしか来てなかったですもんね…でも1年生ならこれから、これから。守りの音駒に高身長選手なんて…また強くなっちゃうね』

「よく分かってるじゃん、みすずちゃん!俺は音駒のエースになるんだ!!」

「始まったよ」

『(既視感…)頑張れリエーフくん!エースのプレー楽しみにしてるね!音駒の優しいセンパイたちに色々と教えてもらうんだよ〜』

「いや、夜久さんはまじで怖いっす」

「おいリエーフ明日覚えとけよ」

「ひぃっ」

『ふふ、早く皆さんにお会いしたいです!』

「だな。インターハイ予選勝って、ゴミ捨て場の決戦やろうや」

『はい!』



次に会える日が決まるのはこれからだ。
俄然やる気出て来たと思ってたら、研磨がものすごく不機嫌な顔で睨みつけて来た。



「もうみすずとゲームやっていい?」

「おーおー邪魔してごめんな、研磨!」

「てかお前が部室でやってるのが悪い」

「……」

『研磨くんが言い負かされてる』

「みすず早く次のクエスト行こう」

『ふふ、はーい!私やっと装備作れそうだよ〜』



まあ、俺もみすずちゃんに会いたいけど、研磨も楽しみにしてんだろうなぁ。チビちゃんのことも気に入ってるみたいだし。

他人にあんま興味持たねーから嬉しいなって思う反面、幼馴染み的にはほんのすこーしだけ、寂しかったり、羨ましかったりして。


だってあんな風に凄んだり、はにかんだりする研磨見たことねーんだもん。



「黒尾さぁ、研磨にみすずちゃん取られて悔しいのか、みすずちゃんに研磨取られて寂しいのかどっちだよ」

「何言ってんのやっくん、どっちも取られてませんケド」

「何だよなんか哀愁漂った表情してただろ今」

「気のせいじゃないですか?てかキモいからやめろ」



図星過ぎて焦った。

…おい海、その顔で俺を見るな。




取ったのか、取られたのか


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