影山飛雄とハイタッチ
初めてみすずを見た時は、及川さんの熱心なファンだなってくらいにしか思わなかった。
そんなやつ何人もいたし、特に気にもしていなかったけど、いつの間にか毎日部活に顔出すようになって、毎日練習を熱心に見るようになって、少しずつ、少しずつ、俺たちの中でその存在が大きくなった。
そして、何より追い打ちをかけたのは。
「あ、影山飛雄くんいた!」
「…なん、スか?」
「? 何で敬語?私も1年生だよ?」
及川さんみたいなサーブが打ちたくて、1人で自主練していたところに神崎みすずが現れるようになったことだった。
まともに話したこともないのに、仲の良い友達を見つけたみたいに嬉しそうに笑って、俺に駆け寄って来る。
及川さんにしか興味が無いもんだと思ってたから、自分の名前を呼ばれたことに動揺しちまった……。
「ねえ影山飛雄くん」
「…なんでフルネーム?」
「じゃあ飛雄くんって呼んでもいい?」
「別に、イイけど」
「わたし、徹先輩のサーブを見て、それからあのセットアップを見て…自分がプレーヤー辞めてまでこの人のバレーボールをずっと見ていたいって思うくらいゾクゾクして…ファンになったんだけど」
「……あ?(なんで及川さんへの愛語られてんだ俺)」
「今日、飛雄くんのセットアップを見て、同じ気持ちになった…!」
「っ!」
その、真ん丸で真っ直ぐな目が俺を離さなかった。
「徹センパイとか岩泉センパイが卒業したら……って思ってたけど、飛雄くんは私と同じ学年だから、ずっと、見ていられるんだよ…!それって私にとってはすっごく嬉しいことなの!だから」
ありがとう。
そう言われて、俺は急に及川さんが羨ましくなった。
及川さんはずっと、このきらきらの瞳を、自分だけを映す絶対的な期待の眼差しを、独り占めしてたんだ。そしてこれからも、コイツはこの瞳を及川さんに向ける。
……嫌だ。
俺にだって、もっと向けていて欲しい。
「飛雄くん…?」
「…すぅ」
深呼吸。
不思議そうな顔をする神崎みすずを横目に、サーブの位置に立つ。
深呼吸。
うん、なんか、出来る気がする。
まだ一度も成功したことがなかったジャンプサーブだけど、今なら…今なら打てる気がする。
「ジャンプサーブ…!?」
「っ、しゃあ!!」
思い切り打ったボールの感触。
出来た、初めて…まだ威力は全然だけど、綺麗に決まった……!!
「もしかして、初めて…」
「…ウス」
「すごーーい!!やったね飛雄くん!!ハイ」
「ハイ……?」
「ハイタッチ!」
「……」
大きく掲げられた両手に、自分のそれを合わせた。
ぱしん、と乾いた音が体育館に響いた。
あー、なんか、これ、すっげえ、ドキドキする。
「未来の北川第一も楽しみだね!」
影山飛雄とハイタッチ
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