太陽に出会った




中総体予選1日目。

言わずもがな男バレに着いて来たみすずは、予選表を片手にどの試合を見るか、頭でスケジュールを組み立てていた。
前見て歩きなさい、とすかさず国見がチョップする。

そんな様子を見ながら、他校の生徒たちがこそこそ話し始めた。



「あ、おい天使だ」

「天使?」

「お前知らねーの?勝利の天使」

「何それ」

「あの子が座った観客席のコートにいるチームは必ず勝つって言われてんだよ」

「でも北一のマネじゃねーの?そしたら北一のベンチに座るべや…北一強いし」

「いや天使はベンチに入らない。って言うかマネなのかも不明。選手だったって噂もあるくらいだし」



みすずは大会中、強豪である北一のジャージを着たまま他校の試合に足を運んでいたため、その姿が噂になっていた。

更に他校のチームや選手の分析が落ち着いた3年生になってからは、お気に入りの選手やチームがいるコート…強い選手やチーム側のコートに座って観戦するようになった、つまり、自ずとその学校が勝利することが多いのだ。


そして気付けば、“勝利の天使”などと呼ばれるようになったのである。



「つかなんで天使?そこは勝利の女神とかじゃねーの?」

「いや、それは…知らんけど、あの、ふわふわな雰囲気じゃね?」



他校の生徒たちがデレっとしながら北一の方を見ると、影山、国見、金田一によって既に壁が出来上がっており、周りからみすずの姿はもう見えなかった。

なんなら、その3人が鋭い目線を周囲に向けているくらいである。



「「(怖っ)」」

「ホントに、お前なんなの?」

「えっ急になに?」

「なんで俺らよりみすずが注目されてんだよ」

「えっ勇太郎くんまで!」

「大人しくしろ、ちょこまかするな」

「えっしてない!今してなかったでしょ!ねえ!飛雄くん!!」



誰にも返事をしてもらえなくなり、むすっとしながらコートに着いて行くと、1回戦の対戦相手の「雪ヶ丘」のユニフォームを着た子たちが入口で屯していた。

雪ヶ丘なんて初めて聞く名前だから、新参者かあるいは思い出作り的なチームだろうけど、なんていうか、小さい。

あ、振り向いた。



「い゛ぃ゛っ?!」

「ああっ…すいません!ほら!」



オレンジ頭の子が勇太郎くんの顔を見て変な声を出して、チームメイトに引っ張られて行った。



「勇太郎くん顔こわいよ」

「ハァッ?別になんも、俺は…」

「元からそう言う顔って事だな」

「国見お前なァ…」



北一のメンバーが体育館に足を踏み入れた瞬間、わああっと観客席から歓声が沸いた。

と、同時にあちらこちらから噂話が聞こえて来る。飛雄くんの話…もうこんなに広まってるんだ。さすが強豪だなあ。



「アップ終わったら上行くね」

「ん、了解」

「…またどっか違うとこ観に行くのか」

「悩み中かな。じゃ、準備してきまーす」



しゃきんと敬礼してから、ぽいぽいと自分の荷物を置くと、後輩に指示を出しながら手際良く準備を進めて行く。

なんであれでマネージャーじゃないんだか、と国見はため息を吐いた。



「あ゛っ」

「どうしたの?」

「スクイズのカゴ1個バスに忘れて来ました…」

「あららわかった、私取ってくるからこっちのドリンク用意しててくれる?」

「すいません!わかりました!!」



マネージャーでもないのに、ここまで後輩からも信頼されているのはみすずの働きぶりを知っているからだった。

みすず自身は、好きなことをさせてもらっている対価を払っている感覚だが、周りからすればそれ以上にサポート業をこなしているうえに、彼女の情報量や的確な指摘が監督やコーチを唸らせることもあり、それを見て来た後輩たちも、2年前の飛雄たちと同様に自然とみすずを受け入れたのだ。



「体調管理も出来てない奴が偉そうなこと言うな、だからナメられるんだろ」

「うっ、なんだと!」

「……?」



体育館に戻ると雪ヶ丘のオレンジ頭の子と飛雄くんがもめている、ように見える。

あの子お腹押さえてるけど大丈夫かな。やっぱり初めての試合かな、てか飛雄くんも怖い顔して何やってんだか。



「一体、何しにここへ来たんだ?思い出作りとかか?」

「勝ちに来たに決まってる!」

「!」



その瞬間、ひしと感じた。

私も雪ヶ丘中のメンバーを見て、思い出作りかと思っていた。けど、少なくともこの子だけはそう思ってない、本気で勝とうとしてるんだ、北一に。



「随分、簡単に言うじゃねえか」

「確かに俺はでかくないけど…でも!俺は跳べる!負けが決まってる勝負なんかない。諦めさえしなきゃ…」

「諦めないって口で言うほど簡単じゃねえよ!」

「やっと…やっと、ちゃんとコートで6人でバレーが出来るんだ。1回戦も2回戦も、勝って勝って……いっぱい試合するんだ!俺たちは!」

「1回戦も2回戦も、決勝も全国も。勝ってコートに立つのはこの俺だ」



飛雄くんはそう言うと、苛立った様子で体育館に戻って行った。

勝ってコートに立つのはこの俺、かぁ。

ごめんね飛雄くん。私は徹先輩のバレーが好きだから、徹先輩がきっかけでこうなってしまったから。



「ねえキミ!」

「へあっ…えっ、あ」

「なんかケンカ売られてたみたいで…ごめんね?」

「あ、いや…そんな」

「名前なんて言うの?わたし北川第一の神崎みすずです!」

「あっう、あ…雪ヶ丘の日向、翔陽……です!」



なぜか緊張で吃る翔陽が可愛くて思わず笑ってしまうみすず。

でも、周りに比べると小さなこの男の子が、飛雄に啖呵をきった日向翔陽が、一体どんなバレーをするのかみすずはすっかり気になってしまったのだ。



「楽しみにしてるね翔陽くん」

「!」



ふわりと微笑んだみすずに、翔陽はびくりと肩を震わせた。

かわいくて、こんなにも優しく、笑っているはずなのに、なんで背筋が粟立つんだろう、この感じは一体…

と考えたところで、あることに気付き翔陽は顔を真っ赤にした。



「へあっ、!な、なま…!名前!!」

「え、あ、ごめん!いやだった?私が名字で呼ばれるの好きじゃなくて…」

「いや!あ、ちが、嫌じゃないです!びっくりしただけ…!」

「ほんと?じゃあ私も名前で呼んで欲しいな」

「えっと…みすず、?」

「うん!」

「…俺、負けるつもりないから!」

「うん、あ…胃薬いる?」

「いつから見てたの?!」




太陽に出会った


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