025 とろける誘惑
「…想像以上の力だな」
栞の不安は的中する。
口元を歪めた闇の塊の視線は、途切れることなく子供たちに注がれていた。
「だが、疲れている今なら倒すチャンスは十分ある…。誰も“守人”を守れはしない…」
ふ、と嗤うと、その姿はムゲンマウンテン頂上から消えていた。
★ ★ ★
「どう考えても変ですよ、1日に2回の進化なんて…」
「いいじゃねーか。おかげで助かったんだから!」
「でも…」
山道が終わり、ようやく森林にでた子供たちの会話は専ら進化についてだった。
今までは一回しか出来なかった進化。それなのに今日はどうして二回も進化することができたのだろう、ということだった。
「デジモンたちがパワーアップしてるとは考えられないかしら?」
「そうか、その可能性もありますね」
確かに体力的にも精神的にも向上したのも1つの原因である。しかし、それ以上に、彼らの進化に携わっているものがある。無意識に感じ取っているデジモンたちと、意識的に感じているイヴモンしか知らないことだった。
(…栞の、覇気が弱くなっている…?)
イヴモンは少しだけ息を荒く吐いている栞を見て、眉を寄せた。彼女は守人だ、デジタルワールドで、彼女が身体的に困難になることは決してない。なのに。
(…ムリをしたか)
まだ栞は守人という意識がない。自覚もない。そんな中、二度もデジモンたちを進化させる光を放つのは、少しばかり無理があった。彼は空を仰ぎ、目を細めた。
(闇も、迫り始めている)
彼女の内にある闇が、巨大な闇と反応している。こんな時に、自分の無力さを呪いたくなる。進化さえ出来れば、こんなルールさえなければ、彼女を守る力はいくらでもあるのに。
「っ、!」
イヴモンが思考を中断させたのは、栞の足がもつれたからだ。かくりと折られた足はその場に座り込んでしまい、立ち上がることができない。
「栞!」
「栞さん、大丈夫!?」
「…ご、ごめん、なさい…」
1つ、荒く息を吐く。その時に微かに聞こえた喘鳴に、空は太一を見上げた。
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