「ここでこうしててもしょうがないわね…」
「もっと奥を探してみよっか?」


 建物の中は豪邸で、見える範囲で妖しいものはない。広間でそうこうしていたところで、何もならないだろう。とりあえず、と太一が言いかけた時、ガブモンは急に目を輝かせた。


「あ、これは…」
「…ん?どうした、ガブモン」
「食べ物のにおいだ…それもごちそうだ!」
「えーっ!」


 においだけでご馳走と分かるくらいだから、期待してもいいだろう。こっちだと駆けていくガブモンを追いかけて、子供たちは1つの扉を開けた。


「食いもん、だよな…?」
「そう見えますが…」


 そっと扉を開けた太一の後ろから、同じくそっと覗き込む光子郎。やけに慎重になるのは、先ほどのこともあってのことだ。いつ何が起こるか分からない、この食べ物にもしかしたら毒が入っているかもしれない。


「なんてラッキーなんだ…」
「いくら何でも話がうますぎるわ!」


 卵を拝借しようとしていた時は泥棒扱いされたらどうするんだと言い張っていた丈も、快心したらしく、何だかんだで一番喜んでいた。逆に他の子供たちがため息をつくくらいだった。


「ホントにうまいわ!」
「あーっ!」


 いくら何でも話がうますぎる――そう考えていた子供たちの欲を沸き立てたのは、楽天的に生きるデジモンたちだった。毒なんてそんなの関係ないとばかりに、目の前のご馳走をむしゃむしゃ食べる。


「何ともないか、アグモン」
「うん!おいしいよ!」
「こんなうまいもん食わないなんてバチがあたるで!」


 肉類、フルーツ、炒飯。好きなものだけ、何の遠慮もなしに食べれるのだ――ごくり、と子供たちは生唾を飲む。


「ぼ、僕は食べるぞ!」


 最初に動いたのは、先ほどからこのご馳走に目を奪われっぱなしだった丈だ。拳を握り、我慢できないと言う。


「少しくらいラッキーなことがあってもいいじゃないか!」


 栞が食堂についたのは、丈がやけにテンション高くそう言っていた時だった。腕にはイヴモンを抱え、その顔色は少しだけ悪い。


「う、わ…」


 目の前に広がる食べ物――栞も今までこんなご馳走を見たことがなかった。すごいと思う前に、こんな美味しい話がどこにあるのだろうと考えた。本当に、食べ物なのだろうか。卵は本物だった、でもその前の自動販売機も電話ボックスも偽物だったのだ。

back next

ALICE+