026 息が、つまる、感覚




 長い夢を、見ていた。
 青い空が広がる大地で、元気よく跳ねまわるデジモンたちがいる。そこには『彼』もいて、『あの子たち』もいる。優しい眼差しでデジモンたちを見守り、暖かい手で孵してあげる。そんな、『わたし』の世界があった。光に満ちあふれた世界は少しばかり眩しすぎて、眩暈を感じるほどだったけれど、それでも愛おしい世界だった。『わたし』は『彼』と『あの子たち』と一緒に、ずっとずっとこの世界を守っていくものだと思っていた。否、そう思っていたかった。
 しかし、世界は無情にも闇を見つけ、その闇はいつしか光を壊していた。『わたし』の世界が、壊れていった。


★ ★ ★




「良いお湯だったわ」
「本当!栞さんもこれば良かったのに…」


 階段をあがると同じ様な扉がいくつも並んでいた。その中で、空は1つだけ開いている部屋を見つけた。きっと栞がそこで休んでいるだろう。彼女の体力がないのは今に始まったことではないし、正直よく持った方だとも思う。
 お湯に浸かって元気を取り戻した子供たちは、勢いよく扉を開けた。


「うわあ〜!」


 感嘆の声をあげたのはタケルだった。もう何年も見ていなかったような気さえする、真っ白く新しいベッドが八個ずらりと並べられてある。最後に部屋に入った空は、栞はどこかと見渡してみれば、一番奥の右側に丸まって寝ていた。掛け布団もかけずにその場にいる姿は、何だか兎のように小さかった。
 空がその隣、空の隣にミミが、そして入り口付近に丈が荷物を降ろし、栞の前にタケル、その横にヤマト、光子郎、太一の順番にベッドを決めた。


「ふっかふかだー!」
「本物のベッドだ!ちゃんとシーツに糊もきいてる!」
「空、栞は?」
「だめ、もうぐっすりよ」


 空は1回栞を揺さぶってみるが、すーという声が返ってくるだけで、目が動く様子が微塵も感じられない。空は肩を竦めると、疲れた身体を休めたくて、ベッドに入った。


「何だか林間学校みたい!」
「そうね!」
「みたい、じゃないよ!そもそも僕たちサマーキャンプに来てたんだ!それがどういうわけか…」


 そこまで言って丈は何も反応ないことに気づき、失言だったと後悔した。彼の気持ちに凡例して、ずり落ちてくるメガネをかけ直す。


「ごめん…」
「そうだよな…。ただのキャンプに出かけるつもりでみんな家を出たんだよな…」
「俺たちがこのファイル島に来てから、今日で5日…。学校や町内会じゃ大騒ぎになってるんだろうな」


 ほとんど泣きそうな顔をしたタケルは、これ以上話を聞きたくないと言わんばかりに、壁の方を向いた。パタモンが心配気に見てくる瞳が、今は必要性を感じられなかった。こういう時、母に抱きしめてもらいたいと思った。
 ちらりと空はタケルを見た。ばさりと言う音が聞こえたせいもあるし、何となく直感でだったがこんな話がいやなのではないかと感じたからだ。


「今日はもう寝ましょ。デジモンたちも疲れているし、」
「そうだな」


 同意したのはヤマトだった。罰が悪そうに天井を見ている。「おやすみ」、そんな言葉が誰からか飛び出し、子供たちは目を瞑った。

back next

ALICE+