003 今日がその日
吹雪はやんだ。
祠を出た子どもたちは、真夏の青空と不釣り合いの、見渡す限りの銀世界に途惑いを隠せなかった。
「あーっ!見て見て!凄いよ、外真っ白だぁ!」
一際高い男の子の声で、子供たち全員が外をのぞきこんだ。
男の子―高石タケルはニッコリと笑って、無邪気にヤマトの腕を掴んだ。
「お兄ちゃんすごいね!」
「あ、ああ」
ヤマトと一緒にいたタケルは、雪に大はしゃぎで自分の膝の下まで降り積もった雪の中に飛び込むと手のひらで雪をすくい、丸めだした。
「ねー、お兄ちゃん。雪合戦ができるよ」
「まぁ…な」
可愛らしい弟を保護者の顔で見守るヤマトから少し離れたところで、栞が青空を見上げながら、胸の前に手をあてて不安そうに口を開く。
「いったい、どうなってるの…?」
誰に向けられたものでなかった。ただ思ったことが口にすぐ出てしまい、泣きそうになる。栞のいつもの癖だった。それを知らない城戸丈は、頭上を見上げてメガネの縁に手をかけて少し自慢げに雪が振った理由を皆に解説をする。
「あー、たぶん上空に寒気団があるんだな。アメリカで雪を降らせた寒気団が日本にまで来たのかも」
「ふぅん、丈先輩って頭いいのね」
「いやあ、それほどでも」
ミミが褒めると照れたように頬をかく丈は満更でもないようで、太一は苦手なタイプだと思った。そんな太一の隣でヤマトがタケルのズボンについた雪を払い落としながら、ちらりと丈の方へと視線を向ける。
「で、丈」
「ん?」
ヤマトが丈を呼び捨てにしたのは同級生だと思ったからだった。
「吹雪はもうおしまいか?」
「ああ。ほら空に雲一つないだろう。いくら寒気団があっても、雨を降らす雲がなければ雪は降らない。そんなの常識だ」
自慢気に講釈する丈にヤマトは眉を潜める。
「あー…その別に君たちに常識が無いって言ってるわけじゃないよ。そこのところは勘違いしないで欲しいんだが」
ヤマトはむすっとした顔をしたのを見て、丈は慌てて言い直した。
「ねぇ、ところでさ」
雪だるまを途中まで完成させたタケルが、作業を中断して、上空を指さした。
「あれは何?雪じゃないよね?」
全員で空を見上げた。
そこにはシャボン玉のように次々と光の色を変えてゆく、透き通った巨大なカーテンが、その裾をゆらゆらと翻していた。
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