「ど、どうしよう、パタモン…」
タケルは戸惑ったように、自分にとってたよりになる存在であるパタモンを見た。
(レオモンの黒い歯車を吹き飛ばせられれば、レオモンはオーガモンと戦ってくれるはず…。でも、でももしボクたちが失敗したら…そうなったら、ボクたちはタケルや栞を守りきれるんだろうか…)
タケルを守るように前に出ていたパタモンの心臓も、栞と同じくらい高鳴っていた。自分は大切な人を守る力すら持たない無力なデジモンだ。思わず泣きそうになるのを堪えて、パタモンはきっと前を見た。 もし、自分がだめでも。 そう考えた。 イヴモンがきっと何とかしてくれる。 栞が、守人が、絶対守ってくれる。 それは妙な確信であった。だって彼女は、デジタルワールドの秩序である守人なのだから。
「、あっ」
バキッと、木が折られる音が聞こえ、思わず栞はタケルを庇ってその場に伏せた。もちろん腕の中にはイヴモンとパタモンもいた。一番危ない場所にいたのはパタモンで、間一髪でその長い羽根を引っぱったのだった。
ぎ、とレオモンの暗い瞳が栞たちを射た。胸の奥深く突き刺さるように冷たい視線に、何も考えていないような視線に、栞はおのずと泣きたくなるのを抑えた。
「選バレシ子供タチ…倒ス!」
タケルの小さな身体を抱きしめ、目を思い切り瞑る。ああ、ここで終わるのだろうかと思ったとき、それはいやだと思った。 まだ生きていたい。折角、みんなと仲良くなれたのに。 折角、『友達』ができたのに。
「守らなきゃ、…」
私が、守らなきゃ。
―――…しゃららん。
小さな小さな思いは。
大きな大きな決意に変わる。
―――…しゃらららん。
「お願い、っ」
誰かとは言わない。 そう、自分がやる。
レオモンのこん棒が振り下ろされる、その一瞬だった。
栞の身体が、いつに増して美しい光りを放つ。それは淡い青色だったのかもしれないし、桃色だったのかもしれない。 もしかしたら目には見えないほど、透明だったのかもしれない。それは、いつしか栞の頭に浮かんでいたイメージだったのだ。『守る』思いは、姿形を変え、光となり彼女に降り注ぐ。そしてそれは、いつしか全ての光に変わる。闇すら包み込むほど、巨大な、光に変わる。
「ぐっ!」
レオモンがその眩しさに耐えきれず、足元から崩れ落ちた。栞から已然と放たれる光のせいだった。
彼女の光を直に見ていたタケルは、最初、彼女が神かと勘違いした。神と紛う光は、目の錯覚を起こさせる。タケルには、栞の姿が大人の人に見えたのだ。黒い髪は腰辺りまで伸び、大きな灰色の瞳は『すべて』を見ていた。小学2年生ながらそう感じてしまうのは、それほどまでに栞の姿が神々しかったのだ。
「タケルくん、」
「栞さん…!」
名を呼ばれ、はっと我に返れば、そこにいたのはいつもの栞だった。大丈夫?、と問いかけられ、タケルはただ頷いた。そうすれば彼女はほっと安心したように息を吐いて、よかったとタケルの頭を撫でた。
「選バレシ子供、…守人…!」
それは、本当に一瞬の隙だった。
背後に回ったレオモンの鉄拳が、タケルと栞目掛けて振り下ろされる、その時。
「フォックスファイヤー!」
ゴォ、と唸り音とともに蒼い稲妻じみた炎の塊が見えた。それは瞬く間にレオモンに襲いかかり、彼は持ち前の反射神経でそれを避けた。
「ヤマトとガルルモンだネ!」
「来て、くれた…」
更にほ、と息を吐く栞に、イヴモンも優しく微笑みかける。
全て分かっていながら、少し心配していたのだ。彼の顔にも安堵が広がった。
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