030 変わらない変われない




「ぬぅぅ…」


 デビモンは、低く唸った。
 選ばれし子供たちが、これほどやるとは思ってはいなかったのだ。本当だったら、今頃守人が自分の手中に収まっているはずだった。そして、この世界は闇に染まっているはずだった。なのにその計画は、彼らによって潰されてしまっている。


「『狩人』…ヤツが『封印』されている今、何としても『守人』は我が手中に収めなければならぬというのに…!」


 幾度となく守人を手に入れる機会はあった。しかし、その度に彼女の片割れである狩人に邪魔されてきた。彼について思い出すことができるのは、あの忌々しい顔だけだった。憎しみばかりが沸々と甦ってくる。


「…だがヤツはまだ出てこれはしない。所詮、『光』とはそんなものだ。守人を我がものとし融合することができれば、選ばれし子供たちなど相手ではない。世界を手にするのも、 もはや夢ではない」


★ ★ ★




「いつの頃からだったか…噂が流れ始めた」


 大きな木の下にいるのは、レオモンと子供たちだった。


「世界が暗黒の力に覆われた時、別の世界から『選ばれし子供たち』がやってきて、世界を救う、というものだ。…今のファイル島はまさに暗黒の力に覆われている、」


 1回言葉を句切り、レオモンは顔を上げた。


「そこへキミたちが現れたのだ」
「それで俺たちが『選ばれし子供たち』ってワケか…」
「だけど証拠はないんだろ?」
「『選ばれし子供たち』はデジモンを進化させる力を持つという。そう、キミたちのようにな」


 頷く子供たちを見ながら、レオモンはただ、と言葉を続けた。


「そしてその進化は『守人』がその手助けをする、と」
「栞が?」
「そうですね。思い出してみれば、進化の時は、必ず栞さんの力を感じたように思います」
「ああ。それは『守人』がこの世界の秩序だからだろう」
「それが本当なら栞はすごいんだな」


 にっ、と太一に笑いかけられ、栞はぶんぶんと顔を横に振った。その顔が赤く染まっていることを見つけると、太一はさらに笑みを深くして彼女をからかう。


「まあ、太一さん、それくらいに。…しかし、もしそうだとしたら…暗黒の力を消滅させれば僕たちはこの世界にとって不必要なものとなる」
「え?何言ってるの、光子郎くん」


 ミミのきょとんとした顔を見て、光子郎は思わず立ち上がりながら言った。


「つまり、元の世界に戻れるかもしれないってことですよ!」
「…だが、そのためには」


 真剣な顔をしたヤマトは、後ろを振り返り、ムゲンマウンテンを見つめた。それはみんなが感じていることで、栞も眉を寄せ、顔色を曇らせた。あれから、何かある度にデビモンの声が頭の中で響き渡る。
 そして瞼に焼き付いて離れないのは、少しだけ悲しそうな、瞳。

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