「…彼とはじめて会った時、約束をしたんだ」
その声は、案外すんなりと子供たちの心に融け込んでいく。よく知る声を目の当たりにした子供たちは、その方向を一斉に振り返った。栞は、例の如く、凜とした佇まいで座っていた。だがその瞳は、ただムゲンマウンテンを見ていた。
「彼はとても傷ついていたから、その傷を癒してあげた。それでもその傷は癒えないから、ずっと介抱した。それからは、ずっと一緒にいたんだ。…私はね、ただ見返りが欲しかった。この子の言うとおり、」
彼女はそこで腕に抱いたイヴモンの頭を撫で、優しく微笑んだ。
「私には守る力はなかった。無力だった。ただ祈ることしか出来なかった。なのに、私は守人なの。守らなきゃいけないの。…笑顔をくれる子供たちを、守らなきゃいけないの。だから、力が欲しかった。傷つけることは何の解決にはならないのも分かってる。でも、時にはそうしなければならないことも、分かっていた。―だから…彼を光にした。光は闇を照らし出す。物理的に世界を守る力を光に変えた」
少しだけ、そう、ほんの少しだけ悲しそうな顔をして彼女は笑い、子供たちの顔を順々に見つめた。
「あの子も、かわいそうな子。そうすることで、自分の意義を見つけたいだけ。そして、そうすることで…。ううん、なんでもない。助けてあげたかったけど、私にはできなかった。…でもね、選ばれし子供たち。あなたたちならできるはずだよ。…一番小さな子、――タケルくん」
瞳がぴたりとタケルで止まり、タケルが自分自身を指差したのを見て、彼女は優しく頷いた。
「あなたは、希望だから。道を――見失わないで」
『希望』、その言葉に子供たちは胸が熱くなるのを感じた。きっと彼女は、栞の中の『守人』、そのものなのだ。タケルが大きく頷くのを感じると、彼女は立ち上がった。
「臆病で泣き虫ないつもの私は、負の部分。あなたたちはみんな、正を受けたものたち。いつか私が闇に堕ちた時は、どうかあなたたちの光で、救って」
最後に彼女はまた優しく微笑んだ。それはまさしく世界を守る守人だった。
栞が気づくと、みんなが自分を見ていた。吃驚して視線をあちらこちらに飛ばしていると、太一が笑って、みんなに立つよう呼びかけた。それに応じ、一人、また一人と立ち上がる。
「よっしゃ、ありがたい言葉ももらったし、ムゲンマウンテンに急ごうぜ!」
「え…?ありがたい言葉って、なに…?」
「栞は気にすんなって。でもま、頑張ろうな」
「え、あ、…うん?」
納得がいく答えをもらえず、悶々としていると、イヴモンが「栞が守人だってみんなが理解したってことだヨ」なんて言ってくるもんだから、栞は余計に訳が分からずきょとんとした。更にヤマト、光子郎、ミミを見るが、曖昧に返事をするだけで明確な答えを得ることができなかった。そのパートナーたちも同様だった。しかしレオモンは違うだろうと彼を見れば、まるで父親のように優しく笑っているだけだった。
「…みんな、いじわるだ…」
「みんなで、栞さんがだいすきって話をしてたんだよ」
「え?」
「栞さんも、僕たちのことだいすき?」
足元でにっこりと笑うタケルに、栞は一瞬考え込んだが、すぐに控えめな笑顔を見せた。そして、ちいさく、頷いた。
17/07/25 訂正
10/11/09 訂正
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