032 君を包むには小さすぎる手のひら




 右足にイッカクモンとトゲモンが、左足にグレイモンが、右腕にガルルモンが、左腕にカブテリモンが、頭にはバードラモンが。完全に身体を固定され、身動きを取ることができない。


(守人が、ほしい!守人が、守人が、守人が!…そのために邪魔なものはすべて消す!最も小さき選ばれし子供、 消す!)


 それは一瞬の間に通り過ぎた。膨大な闇の力が一気に放出され、デビモンに群がっていたデジモンたちも、遠くにいた子供たちも、みんな吹き飛ばされ、力を失ってしまった。


「う…、グレイモン…」
「す…すまない、太一…」
「ミミ、ごめんね…。元の世界に戻してあげたかったけれど…」
「もう力が…くそお…」

「タケルッ…!」


 顔を上げた太一の瞳は、驚愕に開かれた。
 同じように闇の力を受けて倒れ込んだタケルの前に、デビモンが立ちはだかっていた。かろうじて近くにはヤマトがいるが、近くによることができない。
 ゆっくりとデビモンの腕が、タケルに伸ばされた。やられてしまう。小さき子が。守ってあげなくちゃいけない、小さき子が。誰もが必死に身体を動かし、タケルのもとまで行こうとする。しかし、身体は動くことを拒否するかのように、思うようにいかなかった。その手は、どんどんとタケルに近づいていた。あと少しで、タケルが捻り潰されそうだという、その時。 

 希望の光が、舞い降りた。


「だめ、っ!」


 一人だけ、闇の力を受けなかった少女がいた。少女は闇の力を一身に受けてもなお、ただタケルの前に立って両腕を広げ、彼を守っていた。


「タケルくんは、私が必ず守る――!」


 不意に、ヤマトの頭の中に、幼き日の懐かしい記憶が甦った。隣の部屋に住んでいた、大人しくて泣き虫だった女の子。父親とお兄ちゃんと三人で暮らしていた子だったはずだ。いつの間にか引っ越してしまい、それ以来会うことはなかった。確かその子の名前も、『栞ちゃん』で。 隠していたはずの思いが、更に甦る。タケルを守ると宣言した、小さな女の子。今また彼女は、成長した姿で、タケルを守ると言っていた。


「そこをどけ、守人。私が用があるのはオマエの後ろの小さき選ばれし子供だ」
「だめ、ここはどけない…っ!」
「そこをどけ、守人!!」
「わあっ、!」


 ぶん、と腕を振れば、そこから再び衝撃波が溢れ、栞の身体を襲った。幾分か力は和らいでいるのかそこまで痛くはなかったが、打ち所が悪かったせいか、立つことがままならない。先ほど爪を立ててひっかじった傷口から、ぽたりと血が流れ落ちた。

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