「八神くん、」
「ん?」
「…どうして、笑っていられるの?」
「え?ああ…何言い出すかと思ったら、そんなことか」
「そんなことって、」
「じゃあ逆に何で栞はそんなに暗い顔してんだよ」
「え…?」

「俺はな、」


 彼は、そう言って、また笑った。
 その後、太一から聞いた言葉は、栞では到底思いもよらないことだった。


―――……わくわくしてるんだ。この先のサーバ大陸に。また見ぬ、大陸に。


 山を降り、川沿いで休息を取ることに決めた子供たちは、まず夕食に取りかかった。子供たちはよほどお腹が空いていたのか、デビモンとの一戦で緊張がほぐれたのか、たくさんあった魚もすぐに無くなってしまった。


「はァ…食った食った」
「やっと落ち着いたわね!」
「満腹になったら眠くなってきよりましたなァ…」

「栞、本当にあれだけで大丈夫なの?」


 夕ご飯をあまり食べなかったのを空に指摘された栞は、曖昧に笑みを浮かべ、頷いた。


「あんまりお腹、空いてなかったから…」


 そう言って、栞は、自分の横で卵を撫でているタケルを見つめた。ずっと大事そうに抱え込み、時折話をかけている。そんな様子を見て、なんだか切なくなった。そう思ってしまってはタケルに失礼かもしれないが、栞はそう思わずにはいられなかった。


(だって、守れなかった…)


 笑うことなんて、できない。自分は弱い。何も出来ない。
 これから起こること、待ち受けること、それを笑顔で受け止めるなんて、できない。


(だって、私は、守れなかったから…)


 守ると言った。
 タケルは、自分が守ると言った。

 なのに、結局、何も出来なかった。

 今更悔やんで、何になるだろう。
 だが、そう思わずにはいられなかった。


「…タケル…」
「あ、ううん…。僕のデジタマも早く孵って、大きくなるといいなあって…」
「お前のデジモンも、またすぐコイツらの仲間に入るさ!」
「うん、そうだね」


 タケルに、ぱっと笑顔が咲いた。


(…すごいな)


 そこでぼんやりと考える。兄とは、やはり偉大なのだ。幼き命を守るために、奔走している。己自身、いつも兄に守ってもらっていた。何気ない兄の一言に、助けてもらっていた。


「…お兄、ちゃん、」
「栞、?」
「う、ううん、何でもないっ」


 ぼそりと呟いた言葉がイヴモンに届いていたらしく、哀しそうな顔をしたので、栞は慌てて首を横に振った。
兄には会いたい。そう毎日のように思っている。だが今はどうだろうか。あんなに恋しく思っていた兄が、何故だか遠く感じてしまう。今のこの時間が、奇跡のように思えて、楽しくて、どうでもいいと言うわけではないが、不思議と寂しくはなかった。
 大丈夫、と笑顔をむければ、イヴモンは何故だか哀しそうな顔をした。


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