「さーて!」


 太一が急に身を乗り出したので、気を逸らされて、栞はビックリした。


「メシも食ったし、これからのこと決めようぜ!」
「ゲンナイさんはサーバ大陸に来いって言ってたけど…」
「…この地図が正しいとすれば…」


 光子郎がみんなに見えるようにパソコン上に浮かび上がった地図をこちらに向け、苦渋したような声を出した。その声は、たぶん、諦めに満ちていた。


「ここから、かなり離れているはずです…」
「えー!私、25メートルも泳げないの!そんなの無理よ!栞さんも、そう思うわよね!?」
「…う、ん」


 その事に関しては、栞も同意見だった。地図を見る限りでは、このファイル島からだいぶかけ離れたところに位置する。体力のない栞の身体が、ついていくわけがない。


「栞一人ダけなラ、僕ガ運ベるヨ!」
「一人じゃ、だめだけど…」


 ありがとう、と付け足して、栞はゆっくりとイヴモンの背中を撫でた。だが心中、とても穏やかではなかった。どうすればいいんだろう。本当に泳ぐとなったら、自分は、足手まといになってしまう。
 不安な顔が表に出てしまったのか、丈は眉を寄せながら太一の方を向いた。


「行かなきゃいけないのか?…この島からデビモンはいなくなった。黒い歯車だって消えた。それにほぼ一周したからどんな場所かも大体分かる。水や食べ物にだって困ることもないんだ」
「どういう意味なの、丈先輩」
「だってゲンナイとか言う奴のことを簡単に信じていいのか?本当にサーバ大陸なんてあるの?」
「おい、何だよ、丈!ここにいても元の世界には戻れないんだぞ!」


 『元の世界』、その言葉に栞は俯いていた顔をあげ、先ほどの太一の言葉を思い出した。


―――…わくわくしてるんだ。この先のサーバ大陸に。また見ぬ、大陸に。


 彼はいつも勇気に満ちている。彼の勇気は、途絶えることを知らない川のように、流れ続けている。素直に羨ましいと感じるのは、栞にないものであるから。そして、それが彼の魅力であるから。
 そっと栞の胸の中で芽生え始めたものは、まだまだどこで壊れてしまうかも分からないほどに、小さくて脆いものだった。

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