「でも太一…デビモンを倒すのも大変だったわ。さらに強い敵が、待ち受けているのよ…」
「それに海の向こうの大陸にどうやって渡るんです?」
「変なデジモンとかもいるかもしんないし…」
「…もう少し、ここで様子を見てもいいかもな」
「何だよ、みんな…」


 ヤマトの最後の言葉に、太一はしどろもどろになった。自分一人が行く気になったとしても、周りの誰も賛成してくれないのでは、何の意味もない。困ったように頬を掻いて、それからほぼ自然と栞の方を見ていた。先ほどのミミとの会話以来、何の発言もせず、何かをぼんやりと考えているようだ。彼女はどう思っているのだろう。何故だか、無性に知りたくなった。


「行こうよ…」


 そんな太一の考えを振り払ったのは、少しだけ震えたようなタケルの言葉だった。みんな誰もが驚いてタケルを見つめた。ヤマトに至っては、誰よりも驚いていた。


「どんな敵が待っているか分からないけど、やってみようよ!…きっと、エンジェモンもそう言うと思うんだ!…だから、僕、」
「私も、」


 勇気なんて、栞の中にはないと思っていた。しかし、本人に気づかないうちに淡く芽生えた勇気は、冒険していくうちに段々と大きなものへと変わっていった。


「行き、たいなって。あ、足手まといになってしまうかもしれないけど、でも…道が、開けたから、行かなきゃ、いけないんだって…思って。私は、どうしても、ゲンナイさんが悪い人には思えない。嘘を言っているようにも、思えないから」


 静まりかえった空間の中で、やけに栞の声だけが響き渡る。それははっきりとした意見とは言い難いけれど、彼女が初めて望んだ『わがまま』なのかもしれなかった。


「タケルや栞の言う通りだよ、太一!僕たちも行くよ!タグと紋章があればさらに進化出来るんでしょ?そうしたらきっと太一たちを守ることが出来ると思う!」
「タケル、栞、アグモン…」
「空、行きましょう!」
「何とかなりますって!」
「サーバ大陸には私より綺麗な花は咲いてないだろうけどさ!」
「オイラは泳いで海を渡れるしね、いざとなったらオイラがみんなを運ぶよ!」
「みんな…」
「ヤマト、行こうよ」


 ガブモンを見てから、ヤマトはそのまま視線をずらし、タケルを見た。幼いと思っていた弟。でも、もうこんなにしっかりしてきた。それからその隣の栞を見た。初めの印象はあまりよくなかった。けれど彼女は今やヤマトの中になくてはならない存在となっていた。
 大切なタケルと、大切だと思い始めた栞の言葉を受け、ヤマトは前を、この先にあるサーバ大陸を見据えた。


「…行こう、サーバ大陸へ」
「行きましょう!」
「分かったよ、…僕も行く!」
「みんなが行くんなら、私も行く!」
「…新大陸ですか…」

「よーし!決まったな!サーバ大陸へ、行こう!」
「「「「おお―――ッ!!」」」」


 高らかに翳した拳は、月夜に揺らめき、新たなる旅路を乗り切る一つの勇気であった。


17/07/25 訂正
10/11/23 訂正

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