「あなたはだれ…?」


 するとぬいぐるみはキョトンとしてから、自分の存在を主張するかのようにぴょーんと飛びはねにっこりと再び笑う。


「僕だヨ、栞!フワモンだヨ!キみのパートナー!マた会えタネ!」


 独特な喋り方をするぬいぐるみに、栞は開いた口がふさがらないほど、ぽかーんとしていた。


「フワモン…?フワモン、は、なに?」
「僕はデジモン!」
「デジ、モン?ここはキャンプ場なの…?」
「こコ?コこハファイル島だヨ」


 にっこりとそのフワモンは笑った。
 本来なら、これは恐怖すべき案件なのだろう。いくら見た目が愛らしいとはいえ、人間ではないものが言葉を離したり動いているのだ。けれど、栞の中には恐怖というものは一切生じなかった。無意識にわかっていた。“これ”は自分に害をなすものではない、と。


「栞、笑っタ?僕、嬉しイ!」


 ぴょんぴょんと飛び跳ねるフワモンに手を飛ばしたとき、叫び声が聞こえた。


「頼むからどっか行ってくれー!僕に構うのはやめてくれー!」


 走ってくる音に、情けないくらい裏返っている声。この声には聞き覚えがある。見知ってからまだ数十分としか経っていないのだが、確か。
 がさっと草が掻き分けられ、そこに現れたのは情けない顔をして想像していたとおり城戸丈だった。


「え、と、城戸さん…?」
「きみは、確かえーと……そうだ!栞くんだ!な、何なんだい、その…君が持っているその、ふわふわした物体は!!」
「え、と…あの、フワモン、って」
「ふ、フワモン!?あああっ、なんで非現実的すぎるんだぁあ!」


 頭を抱えて叫び出した丈に、栞はびくっと体を揺らせて一歩後退する。


「ジョー、どうしたの?頭、痛いの?」
「う、うわあああ!」
「なんで驚くのさー」


 その登場に、栞ももちろん驚いた。茶色のタツノオトシゴとアザラシの中間らしき生き物。ここからでもわかる、口から吐いた生臭い潮の匂いが彼が海の生き物だと言うことを語っている。


「プカモン。会えタミたいダネ」
「フワモンもねー。―あ!シオリだあ!」


 丈の肩に乗っかっていた生き物が栞の方を向いて嬉しそうにニコリと笑い、丈の肩からおりて、ずるずると体を引きずりながら栞の足下で止まる。


「わ〜!本当に戻ってきたんだね、シオリ。僕、シオリにも会いたかったんだよー」
「わ、私に…?…もどって、きた?」
「うん!」


 へらっと笑うプカモンは、それ以上は何もいわなかった。聊か言葉に引っ掛かりを覚えたが、あまりにも嬉しそうに笑っているものだから、栞の中の警戒心も薄まる。
 瞬間、丈が栞の手を掴んだ。


「栞くん!逃げよう!」
「え…、き、城戸さん…?」


 驚く暇さえ丈は与えずに、走り出した。確かに、こんな非常識を受け入れ始めている自分の方がおかしいのか、と栞は咄嗟に思ってしまったが、プカモンが「追いかけっこかー?」と呑気に追いかけてくるその隣でフワモンがにこにこ笑っているのを見て、その思いは捨てた。
 自分が必要とされた。自分という存在を喜んでもらえた。栞には、その事実だけがとても嬉しかった。


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