006 空を掻く指先




「わあぁぁぁッ!!」


 崖から落ちていく。
 どくどくする心臓を押さえながら下を見ると、川が猛スピードで流れているのが分かる。背筋が冷たい野風が吹き荒んだ。――ああ、死ぬのか。そう思わずにはいられなかった。もし、もし死んだら、母や父に会えるだろうか。兄には、会えるのだろうか。家族がそこにいるなら、――…それも、いいか。
 ふ、と栞の手を、暖かい手が包み込んだ。つむった目では誰が掴んでくれているのか、栞にはわからなかったけれど、自分のものよりも暖かい手は、兄を彷彿させてくれた。ひどく、やさしかった。


「マーチングフィッシーズ!!」


 一足先に水の中に落ちていたゴマモンは、水の中から顔を出して彼独自の技名を叫んだ。水の下からぼこり、と次々に色鮮やかな魚たちが現れ、彼らのクッションとなってくれた。


「た、助かった…」


 誰が呟いたかはこの際どうでもよかった。酷くその言葉に賛同できる。栞は震える手を握り締めて、こくこくとうなづいた。
 魚たちは川沿いを素早いスピードで流れていく。とりあえず助かった。栞は先ほどこの手を握り締めてくれたのは誰だったのかと考えながら、ほっと一息ついた。
 あの恐ろしくおぞましいクワガタ怪獣、もといクワガーモンを、自分たちの力で追い払ったのだ。恐怖やら安心感やら、いろいろなものがごちゃ混ぜになって栞はとりあえず困惑していた。


「…ん?おい!あれ…」


 ぽちゃん、という小さな音を聞き逃さなかったヤマトは、不審がりつつ振り返った。そして声を荒げる。栞たちは一斉にそちらの方を振り返り、目を見開いた。


「落ちてくる!」


 タケルの言葉通り、クワガーモンがよろよろと崖から落ちてくる。崖岩もクワガーモンの重さに耐えきれなかったのだろうか、それとも彼らに放った攻撃でまだヒビが入っていたのだろうか、岩とともにクワガーモンが落ちてきた。
 ドドドドド、と凄まじい音を立ててクワガーモンも川に転落する。


「あっ!」


 クワガーモンが落ちてきた衝撃で川が氾濫し、水が勢いよく増す。でかい水しぶきが飛んで、どでかい波が栞たちを襲った。


「わ――っ!!」


 何度目かわからない悲鳴が、どこからともなくあがる。津波が彼らを襲ってきたので、ゴマモンによって呼び寄せられた魚たちは進路を変えて、栞たちを地に下ろしてくれた。というよりは、勢いに紛れて栞たちが勝手に地面に降りてしまったといった方が遜色ないだろう。


(疲れた…本当に疲れた…)


 栞が地面に手をついて息を吐くのと、ミミが息を吐くのと同じタイミングだった。顔はあげ、見回してみると、みんながみんな本当に疲れ切った顔をしていた。


「やっと本当に助かったみたいだな…」


 太一がぽつりと呟いて、のけぞった。その後ろで丈が地面に這いつくばって、ずれているメガネを何回も手で直している。


「何だったんだ、今の魚は…」
「あれはマーチングフィッシーズさ…。オイラ、魚を自由に操ることができるんだ!」
「そうか、オマエのおかげだったのか。ありがとう、プカモン…じゃなくて、えーと…」
「ゴマモンだよ!」


 ゴマモンがにこやかに笑い丈に言った。


「トコモンは?」
「今はパタモンだよ、タケル」


 パタモンもゴマモン同様、にっこりと笑って元気よくタケルに述べると、今度は太一が不思議そうな顔をしてアグモンを見つめていた。そんな視線に気付いたのか、アグモンがにっと笑って太一に抱きついていた。


「ボクたち進化したんだよ、太一!太一のおかげなんだ」
「進化?なんだ、進化って」


 抱きついてくるアグモンに離せよ、と手だけで押しながら光子郎の方を向いた。今、一番この中でしっかりしている、というよりかは知能が豊富なのが光子郎だろうと判断したのだろう。しかし、光子郎は太一の予想に反してわからないといった顔をした。

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