「そ、そう、なんだ…」
やっと出た言葉は、そんな容易い返事だけ。
きっと、気を悪くしただろう。いや、そうなって早く違うところへ行ってくれればいい。誰かとなれ合うのは、したくはない。一人は嫌いだけど、二人以上も嫌いだった。
「何なんだよ、この電話って感じ」
肩を竦めながら、ちょっぴり笑顔でそう言ってくれた。まるでその笑みが、兄によく似ていて、栞は心の奥がずくりと痛む。
「太一、どうだった?」
「全然だぜ。空の方は?」
「私の方もよ」
電話を終えたのか、空が肩をすくめながらやってきた。栞はほっと、心を撫でおろす。二人以上は嫌いだった。けれど空の傍は安心すると思った。
「みんなも諦めたみたいよ」
「まああんな変なのが返ってきちゃあなー。…丈はまだ諦めてないみたいだけどな」
「笑わないの。信じたい気持ちは私にだってあるもの」
まるでカップルのように仲睦ましい二人の会話を傍らで聞いていると、急に太一の視線が、栞の胸元に寄せられた。
「…それ、」
そう言って、手を伸ばす。栞が無意識につかんでいたペンダントに、太一は触れようとした。
「…っ!」
今までで一番身軽だったのではないだろうか。驚くぐらいのスピードで、太一が触れようとするのを拒絶した。手を振り払うわけでも、嫌そうな顔をするわけでもない。ただ、避けたのだ。それは栞の中で最も大きな拒絶である。
太一も空も眼を瞬かせ、栞を見た。徐々に拒絶の意から警戒へと変わる。ペンダントを守るように、栞はうつむいた。
「わ、わるい」
ぽつりと太一の口から謝罪が漏れた。
は、と栞は顔をあげた。べつに、太一が悪いわけではなかった。おそらく、珍しい文様をしたこのペンダントが気になっただけだろうに。逆に謝らなければいけないのは栞の方だ。泣きそうな顔をして、太一を見た。
「変ったペンダントだな、って思ってさ。…わるい、大事なものだったんだな」
栞はペンダントを握る手に力を込めた。
太一は許してくれ、と言わんばかりに両手をあわせた。栞の性格をわかっているからこその行動だっただろう。
「ごめん!」
「…これ、」
「え?」
「…おにいちゃんが、くれたものだから」
栞はただ一言、そうつぶやいた。それ以上は何も言わない。否、言えない。それを察したのか、太一はぽり、と頬を掻いてから明るく笑った。
「そっか。いい兄ちゃんだな」
今度は栞が眼を見開く番だった。“いい兄ちゃんだな”、太一は確かにそう言った。兄を知らないのに、良いお兄ちゃんだとどうしてわかるのだろうか。
「俺にも妹がいるからさ。たぶん、お前の兄ちゃんの気持ちならわかるぜ」
「え、…?」
「あー…やっぱさ、妹ってかわいいから、…!って、俺何言ってんだ!?」
「そういう…ものなのかな…?」
「あ〜…俺は、そう思うけどさ!」
「………、ありがとう」
「いや、礼を言われることじゃないだろ!」
真田はおかしいな、太一は笑いながら言った。すると空もくすくす笑った。
おかしい、かな、栞は困惑したようにまじめに考えた。さらに太一も空も笑った。栞もつられて、小さく笑った。
「おー。みんなあっちにいるな。戻ろうぜ」
「…う、うん」
振り返る明るい笑顔。
今だけは、その笑顔を兄とかさねた。
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