「ところで、…誰か食べ物をって話でしたよね?」
「そうね。あたしが持っているのは旅行用の救急セット。バンソーコーと、消毒薬、それに針と糸くらいよ!」
「ボクはこのノートパソコンとデジカメ、携帯電話。でもここに来てからどれも使えなくなってるんです。まだバッテリー、残ってたはずなのに…」


 キャンプには不釣り合いな電子機器が目の前にどんと出され、子供たちの瞳は驚きに変わる。しかし人の趣味に口を挟むほど自分の趣味も言えたものではないと大人な考えを持ち、誰も口を開かなかった。はずだったのだが、やはり太一は空気を読まないというのか、ただたんに思考が幼いのか。感心したように電子機器を覗き込んだ。


「よく持ってくるよなぁー。こんなサマーキャンプに」


 本人には至って悪気はないのだが、聞き方によっては厭味ったらしく聞こえる。ようはとらえ方であるのだが、光子郎はむっとした表情をした。おそらく後者だったのだろう。


「太一さんは?」
「お?俺?えーと、これだけ。単眼鏡!」


 それだけでよく人のものを言えたものです、と言いかけて光子郎は口をつぐむ。彼もまた、大人だった。


「栞は?」


 相変わらず静かに話を聞いていた栞は、空に問いかけられて、慌ててバックの中身を確かめた。がさり、と手に袋のような質感があたった。
 そういえば、何かあった時のためにとおばが御菓子を入れてくれたのを思い出す。少量ではあるが、これで半日は持つだろう。


「御菓子が、少し」
「ナイスだぜ、真田!」
「僕も御菓子持ってるよー!ほら!」


 栞の言葉に反応してか、タケルが背負っていたリュックを下ろして蓋を開けた。中にはぎっしりと御菓子だけが詰まっていた。子供たちは一斉に安心する。これなら数日は持つだろう。お菓子はカロリーも高いが、結構腹もちをするものが多いからこういった場面では助かる。


「おいしそーねー」


 ミミが二人のバックの中を覗き込んで笑顔で言った。しかし何か思い当たるものでもあったのか、途端に不思議そうな顔をしてタケルを見た。


「でもあなた、うちの子供会の子じゃなかったわよねぇ?」
「夏休みだから、お兄ちゃんのとこに遊びに来たんだ!ね?お兄ちゃん!」


 無邪気な笑顔でタケルはヤマトを振り返った。兄と弟の関係であることは、二人をよく見ていればわかることだ。ヤマトはタケルをとても丁重に扱っているので、本当の兄弟か危ぶまれることもあるが、毛色が同じであることから血のつながりは証明されるだろう。


「あ、ああ」


 ヤマトは、少しだけ戸惑ったようにうなづいた。


「ヤマトがお兄ちゃんだってさ…」
「いとこですかね?」


 太一と光子郎は口を寄せあってぼそぼそと言いあった。
 不自然と言えば不自然な面もあったからこそ、そう思うのも仕方のないことだった。しかしなんにせよ、理由があるものだ。それ以上追及することは、悪趣味である。太一は話題を打ち切るように、ぐるんと振り返った。


「ところで、さ。丈はまだ電話してるけど、食いもんなんか持ってきてな…あーっ!あれ、非常食だっ!」


 太一の突然の大きな声に、栞のからだはびくりと大きく震え上がる。
 しかしその言葉通り、丈が肩からかけていたバックにはおおきく「非常用」と書かれてあった。太一の大きな声が届いたのか、丈も受話器から顔を離して彼らを振り返った。


「そ、そうだ!ボクはこれをミミくんに届けに行くところだったんだ!」
「あたし?」


 そう言うと丈さんは一目散に太刀川さんのところまで走ってきた。


「ミミくん!君は非常食当番だったろ?ちゃんと管理しておかなきゃダメじゃないか!」
「だってェ…重たいしィ…」
「そういうわがまま言ってちゃ…」
「まあまあ食べ物があるってわかっただけでもめっけもんだ!昼飯にしようぜ!」


 おそらくこのまま太一が止めなかったのなら、丈の説教は夜まで続いていただろう。いいタイミングで止めたと、誰もが心の中で感謝した。
 栞は非常食用バックに目を向ける。ざっとその中に入っているであろう非常食の数を割り出し、そこから自分たちの食せる範囲を計算した。


「八人で分けて食べると二日半くらい、だね」
「そうなの?…あ、でもデジモンたちの分もあるから実際にはその半分よ」
「一日ちょっと、ってことか?」
「俺たちはいいよ!自分の分は自分で探すから!」


 苦笑を浮かべる、と言う表現が今のガブモンには似合っていた。実際、今まではそうだったのだろう。この世界で、一人で生きてきた。今はこうしてほかのデジモンたちと一緒にいるのだが、今までは違ったのかもしれない。

back next

ALICE+