008 かたくな




 ドドド…。ドドドド…。
 水しぶきがあがり、五つある電話ボックスが壊されていく。段々と子供たちの方に近づいてくる水しぶきに、栞は足がすくんで逃げ出すことが出来なかった。ぎゅ、と胸元のペンダントを握った。


「危ない、真田!」


 真田、と言うことは自分だろうか。困惑した頭の中で、振り向く前に腕を掴まれ、後ろへ引っぱられた。突然の衝撃に耐えられず、栞は引っぱってくれた相手とともに倒れ込んだ。


「いっ…」
「……あっ」


 どす、と地面に尻もちをついたのは、栞とヤマトだった。二人とは、というより、栞は水しぶきにより破壊された電話ボックスを見つめ、それからゆっくりとヤマトの方を振り向く。ヤマトもこちらを見ていたのか、目が合ってしまった。なんだか恥ずかしくなってしまい、すぐにうつむいて、小さく口を開いた。


「あ、…、ありが、とう、」


 そんな栞の雰囲気にのまれたのか、ヤマトもまた、照れたように小さく返事した。


「それよりも!なんだ、あの水しぶき!」


 変な感じになった雰囲気を変えようと空気を読んだ太一が、水しぶきが起こった箇所を指さす。だがよく見てみるとそれはただの水しぶきではなかった。


「シェルモンや!」


 テントモンが羽をバタバタさせながら慌てて言った。その声色が焦っているためか、子供たちの焦燥感は煽られた。


「この辺はあいつのなわばりやったんか!」
「シェ〜〜〜〜ル!!」


 極悪人面しているデジモンだ。栞は太一の指す方向を伝い、視界を塞いだシェルモンの顔を見てそう思わずにはいられなかった。


「みんな!こっちだ!」


 丈が一人、ガケを登ってみんなを誘導しながら逃げようとするが、シェルモンはその行動に気付いたのか、頭のイソギンチャクらしきところから水を発射する。狙いがぴったりと丈に定められた。まるで映画の中のスナイパーのような鋭い視線に、誰もが息をのんだ。動こうと足が前に出るが、それらの行動よりもシェルモンは早かった。


「うわあああっっ!!」


 鋭い水音とともに、丈の体が転落していく。


「丈ッ!?」


 己のパートナーの名を、ゴマモンが叫ぶように呼んで顔をしかめた。それもそのはず、ここは砂浜である。水がないところではマーチングフィシーズは使えず、彼は無力だった。


「シェ〜〜〜〜ル!」


 威嚇するように唸るシェルモンに、栞は小さく震えた。そうすることで、誰かが助けてくれるのを、待っていた。


「頼んだぞ、アグモン!!」
「行くぞ、みんな!」


 落ちてきた丈の様子を気にしながら、太一が叫んだ。それに答えるようにアグモンが走る。

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