「ベビーフレイム!」


 アグモンが攻撃をしたが、相手の巨体を考えたら、果たして効果があるのだろうか。シェルモンは摩擦音に似た咆哮を上げ、口から勢いよく潮を吐いた。その勢いは半端ではなく、アグモンは水圧で弾き飛ばされた。


「アグモン!」


 太一は悲鳴にも似た声でアグモンを呼んだ。相当強いダメージを受けたのか、彼からの返事はなかった。


「プチファイヤー!!……あれ?」
「マジカルファイヤー!!…え?」
「プチサンダー!!…あん?」


 アグモンを庇おうとガブモン、ピヨモン、テントモンの順番に攻撃を放とうとしたが、それは口元でぽっと現れただけで消えてしまった。それから何度も攻撃をしようと口を開くが、もう煙すら現れてはくれなかった。


「どうしたんです!?」
「技が全然出てこない!」


 それを嘲笑うかのようにまたシェルモンは潮を吐いた。放たれた潮は順々にデジモンたちの体に当たり、先ほどのアグモン同様に吹き飛ばさせる。小さなどんっという音が、あたりに何回も響いた。
 ゆっくりと立ち上がったアグモンは、その惨状に、もう一度シェルモンを向いた。彼は腹からパワーを感じ、口を開いた。


「太一は…、ボクが守るんだ!ベビーフレイム!」


 火の玉はまたシェルモンに命中した。シェルモンは苦しむように呻いて、顔を揺さぶっている。

 けれど何故。
 何故、アグモンだけが攻撃できるのだ。

 考え込む光子郎にテントモンが申し訳なさそうな顔をしながら呟いた。


「すんまへん、光子郎はん…。腹へって…」
「腹…?」
「俺も…。ヤマト…ごめん、力、出ない」


 光子郎はテントモんを支えながら、はっとしてアグモンを見た。


「そうか、アグモンはさっきご飯食べたから…!」
「なるほど!」
「じゃ、他のデジモンに戦う力はないっていうのか!?」
「なくは、ない、と思う」
「え?」


 栞は少しおびえたように、小さくつぶやいた。聞き返したのはヤマトだった。


「アグモンが必死に食い止めてくれている間に、力を蓄え…れば」
「そうか、今のうちに食べさせればいいんだな!」
「で、でもそれは人間用の…」


 吹き飛ばされた衝撃でか、少しずれてしまった眼鏡をちょいちょいと直しながら、丈は弱気に言った。思わず、はぁというため息がでる。ヤマトはずい、と丈の顔を覗き込んで、眉を寄せた。


「今はそんなこと言ってる場合じゃないだろ!」
「ソウだネ。背ニ腹は代エられナいヨ、じょー」


 にっこりと笑ったイヴモンと、不機嫌そうなヤマトと。そんな正反対の二人に挟まれて、丈は力なく、「わ、わかってるよ」と納得してるかしてないのかよくわからないような声色で答えた。


「でも、さっきイヴモンは食べていた、わよね」


 空はピヨモンを労わりながら、栞の横で小さく浮かんでいるイヴモンへと視線を注ぐ。彼は、ただ笑っているだけだった。


「僕ノ役目じゃナイ」


 遠回しに攻撃しないという言い方に、空は眉を寄せたが、それ以上は何も言わなかった。


「アグモン、オレたちだけで何とかするぞ!!」


 その声に子供たちははっとして、シェルモンとアグモンを見つめた。

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