「あ、ありがとう、」
グレイモンの獰猛な姿に太一は驚いたが、彼の瞳の中にある温もりにいち早く気づき、すぐに笑顔を向けた。
―――…そうだ、太一。
―――…君が笑うなら、僕はなんでもできる!
グレイモンの筋肉に、力が入った。
「頑張れ!グレイモン!」
少し離れた距離から手を振る太一、グレイモンは大きく吠えた。そして答えるようにグレイモンは、グルルと喉を鳴らすと、至近距離からシェルモンの頭部――太一を戦慄させた触手の群がりに向けて、高熱の炎を吐いた。
「メガフレイム!」
焦げた触手から吐き気を催す悪臭が生じ、子供たちは思わず口と鼻を押さえた。
グレイモンが二度目の炎を吐こうとする前に、シェルモンはその姿形からは想像もつかないほど素早い動きで海へと逃げた。そして、負け犬のように遠吠えとともにいずこかへと去っていった。
「ガルルル…」
次の瞬間、ぽうっとした優しい光が点り、グレイモンはアグモンへと姿を変えていった。太一はアグモンに直ぐさま近寄った。
「アグモーン!!」
「太一ィ…」
「戻ったのか…。おい、大丈夫か?アグモン」
「…太一ィ、僕、腹へったァ…」
「はは…!」
その言葉に太一は笑って、アグモンの背中を二、三度叩いた。
「っ八神くん、」
アグモンを支え起こそうとした太一の目に、栞が自分の方へと近づいてくるのが見えた。彼女の瞳は、少しだけぬれていて、太一は驚いたように目を瞬かせる。
「どうして、!」
涙ぐんだような声で訴える。
「どうして…っ、あんな危険なこと、したの…!?」
声が震える栞は泣いていた。
本当は直ぐにでも泣いて、逃げ出してしまいたかった。しかしアグモンは戦っている、そして太一もアグモンを信じて飛び出していった。逃げ出してはいけない。泣いてはいけない。だからこそ栞は泣かずに、耐えていた。証拠に未だ手に爪が食い込んだ後が残っている。余程強く強く手を握っていたのだろう。
「え、っと…悪い、真田」
「私、だけじゃ、ない…。みんな、みんな心配して、ほんと、…」
「ああ、そうだな…。ほんとーに悪かった」
「もしかしたら、死んじゃってたかも、しれないんだよ…!」
目の前が真っ暗になるほど、死に対する恐怖は大きい。栞は俯いた瞬間、砂浜に涙の粒が落ちるのを見て、思わず腕で涙をぬぐった。悪い。再度太一はつぶやき、それから、ありがとうとも呟いた。優しい右手が栞の頭上へと伸ばされ、そのまま優しく頭を撫でられる。それは、やはり、兄の手と同じ温度だった。
「心配してくれて、あんがとな」
やっぱり太一はそう言って、小さく笑った。
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