「もしもし!もしもし!!もしもーし!!」
壊れた電話ボックスの一つの電話の受話器を持ち、壊れているにも関わらず丈は電話を掛け続けた。
見た目からしても、もう決して通じるはずはないが、丈の性格からしてかけざるを得ないのだろう。半ばヤマトは呆れた視線を丈に投げつけた。
「ここにいる理由もなくなったな、」
そんな丈を遠目に見つつ、太一は軽く頬を抑えながらぼやく。その様子を見た空が、居心地悪そうにごほんと咳払いをした。
中々戻ってこない栞と太一を心配して、空は二人のところまで駆けて行ったら、なんとそこには泣いている栞と、おそらくは泣かせたであろう太一がいるではないか。思わずその頬めがけ手を振りかざしてしまったのは言うまでもない。そしてすぐにそれが誤解だとわかり、(いや太一が泣かせたということには変わりないのだが)今に至る。
「そうだな」
太一の呟きに、ヤマトは丁寧に返事をしてからポケットに手を突っ込んだ。どうやらまだ電話ボックスでうだうだしている丈を見るのに飽きたようだった。
その下で少しだけ頬を赤く染めた空が、御菓子をハンカチの上にばらまけ、デジモンたちに食べるよう笑顔で進めていた。うわぁ、と瞳を輝かせたデジモンたちはだいぶお腹が空いていたようで、がっつくように食べ始めた。
「シェルモンも完全に倒したわけではないでしょう。また襲ってくる前に、ここから離れた方がいいと思います」
「だったらやっぱりあの森に戻ろうよ」
いい加減ゴマモンになにかを言われたのか、電話ボックスから離れてくるや否や丈は言った。ほかの子供たちはぽかんとするも、丈はそんなの気にしていなかった。
「ほら、僕らが最初にやってきた森だよ!あそこで助けを待とう!」
「で、でも、私たちはガケから落ちて、川を下ってきたわけです、し。一体最初の森がどこにあるのか、分かりませんし…」
「栞さんの言う通りです。それよりもここに電話があったってことは誰か設置した人間がいるはずです!その人間を捜した方がいいかもしれません」
「あ、私もその意見に賛成!」
「よし、それでいこう!」
光子郎の意見にみんなが賛成したので、丈は少しだけ面白くないような顔をした。
「僕は太一の行くところだったらどこにでもいくよ!」
ふ、と栞はそんなアグモンの声を聞きながら、ほかのデジモンたちを見回した。一匹一匹が違うモンスター。形はもちろん、技も、種類も。それでもひとくくりにしてしまえば、同じデジタルモンスター───自分たち、人間と同じである。
「じゃ、それで決まりだな」
ヤマトの声に、全員が立ちあがった。栞は、といえば、あわてた様子でそれに倣った。
「じゃあみんな!自分の荷物を確認してくれ!」
その声を聞いて、栞はのろのろと準備にかかった。
「真田、」
少しだけ飛び出ているお菓子をバックの中につめていた栞は、その声で頭をあげる。そこにはヤマトがいた。
「…どうしたの?」
「…あのさ、おまえ、大丈夫か?」
「なに、が?」
きょとんとすると、ヤマトを髪をかきあげた。
「や、その…。おまえ、あんまり体力ないんだろ?疲れとれたのか?」
「あ、」
目をぱちぱちしてから、栞は小さく笑みを浮かべた。そうか、心配してくれているのか。
「――あ、ありがとう、でも、大丈夫…」
バックを持ち上げて、栞は立ち上がった。ヤマトの方を向いて、ちゃんと笑って。ありがとう、がきちんと伝わるように。
ヤマトは少しだけ目を見開いて、それから頬を赤く染めた。
「あ、いや…」
「ん?なんだー、ヤマトー!照れてんのか?」
にまにま笑いながら太一がヤマトを突っつくと、ヤマトは違った意味で顔を染め上げる。栞が自分を見ていると気付くと、彼はさらに顔を赤く染めて、そっぽを向いてさっさと歩きだしてしまった。もちろん、タケルの手を引くことは忘れていなかった。
「お、おい、ヤマト!待てよ!」
「行くんだろ!早く行くぞ!」
吃驚して栞は眼をぱちぱちと瞬かせる。―怒らせて、しまったのだろうか。
「栞、私たちも行きましょう」
しどろもどろしていると、空が栞の手を取った。隣にはピヨモンが嬉しそうに手をパタパタさせながら歩いている。
明らかにしぼんでいます、と雰囲気が語っている栞の手を握り締め、空はにっこりと笑った。
「ね、栞。石田くん、怒ってるわけじゃないわよ」
「え?」
「ただ恥ずかしかっただけなのよ、きっと。女の子に免疫なさそうだから」
「そう、なの?」
「そういうものなの。栞も、きっと石田くんと同じよ」
そう言われて栞がきょとんとしたので、空は声をあげて笑った。
「何してんだよー!おーい、みんな!空と真田、置いてくか!」
「ああもう!何言ってるのよ、太一!」
「もう、空さんも栞さんも遅いわよ!早く!」
「ご、ゴメン」
今まで固かった栞の笑顔が、少しだけ柔らかくなった。
一人は嫌いだった。
でも、二人以上も苦手だった。
二人がちょうどよかった。
だから兄と二人だけでよかった。
だから一馬と二人だけでよかった。
空と二人だけで、よかった。
不意に、空を見上げる。空は綺麗に青く澄み渡っていた。
そ、と笑みを浮かべ、仰ぐ空に希望を重ねる。
―――…一馬。一馬も、空、見てる?
同じ空ではないかもしれないけれど、栞は、この空の下にいる。
17/07/25 訂正
10/07/12 訂正
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