009 答えはきみの笑顔の中に




 夕日が落ちていく。デジタルワールドにきたのが大体昼の1時くらいだとしたら、もう夕方の4時くらいにはなっていた。色んなことがありすぎたせいで時間が経つのが凄くゆっくりに感じる。海岸からだいぶ歩き回ったせいで、子供たちはかなりヘトヘトになっていた。


「あー!もう疲れたぁ!」


 木にしがみついたまま動こうとしないミミの横を通りながら、太一が少しだけ怪訝そうにしながら、その肩に手をおいた。


「もう少しがんばろうぜ、ミミちゃん」
「足が太くなっちゃう!」


 そんな太一の言葉などお構いなしにミミが言うものだから、アグモンがきょとんとミミを見上げながら「でも」と言葉を継ぎ足した。


「でも太いほうがいいんだよ、ミミ!そのほうが身体を支えるにも土を蹴るにも…」
「あなたと一緒にしないで!」
「なんだ、元気じゃんか」


 遺憾である、と言いたげに立ち上がったミミに、太一は横から茶々を入れる。するとミミは余計に怒ったようで、顔を赤く染めた。両手を握り締めてぶんぶん振り回すので、空がすかさずその手を取って、歩き出した。空の隣を歩いていた栞も少しばかり疲れたような顔をしてから、小さく笑った。


「もう少し、もう少しがんばりましょう、ミミちゃん」
「…私も頑張るから、太刀川さん」


 年上2人の言葉にはミミも納得せざるを得ないのか、それとも自分より栞の方が辛そうだと思ったのか、小さく頷いて渋々歩き出した。


「そろそろ日が暮れるみたいね…」


 空が、ふと顔をあげた。その顔は、夕日に照らし出されて、少し綺麗だ。栞は素直にそう思って、自分の頬に触れる。少しだけぷにぷにする頬をつまんで、小さなため息をついている。その様子を見たのか、イヴモンは、優しく笑った。


「それにしても、奇妙な色の夕焼けですね。…太一さん!」


 立ち止まった光子郎は、先を歩く太一を呼び止める。声を上げたことにみんなが立ち止まって光子郎を見た。


「んー?なんだ、光子郎」
「暗くなってから進むと危険ですよ。――どうしますか?」


 その言葉に太一は一瞬だけ目を丸くさせてから、頬を掻いた。どうやらあまりそのことについては考えていなかったらしい。本当なら今はキャンプの時間だし、キャンプはテントの中といえど野宿。ということはここで野宿でも平気だ、と考えていたようだ。


「…あ、い、泉くんの言うとおり、危険だと思うな。…さ…さっきみたいのが出てきたら…その、怖いし…」


 自分の出るべき場所はここである、と言いたげに、栞がおずおずと言葉を挟む。言葉自身に力は籠っておらず、最後の方は誰かの呼吸音によって消された。
 栞の言葉に、太一は考えた――でもどうすればいいのか、皆目見当がつかない。大人はいない、自分たち子供だけだし、ましてやここは危険。テントなんて上等なものはないだろうし、かといってそこらへんで寝転がったら、″もしも″何かがあるかもいれない。考え込む太一とは裏腹に、テントモンが羽を羽ばたかせ上空へとまいあがった。虫の知らせというやつを感じ取ったのかもしれない。大きく太い木に止まって、じっと目を凝らす。


「におう…。においまっせ!真水のにおいや!」
「真水?」


 タケルの手をひきながら守るように歩いていたヤマトが聞き返すとテントモンはコクリと頷いて、更に目を凝らす。心配そうに見続ける栞の遙か先で考え込んでいる太一。不審そうに辺りをきょろきょろ見回す丈とテントモンを見上げている光子郎。疲れたぁ、と言い続けるミミと、光子郎と同じようにテントモンを見上げている空。


「あぁ!湖でっせ!あそこでキャンプしませんか!?」
「湖だって?」
「ちょうどいいじゃんか!行こうぜ!」


 悶々と考え込んでいた太一はテントモンの「湖、キャンプ」と言う言葉にすかさず顔を上げて先頭を取った。こういう時、やはり頼りになるのは太一であり、みんなが太一の後にくっつくように歩き出した。

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