「だいぶ冷え込んできたね、」
「路面電車に戻っててもいいんだぜ?」
「ううん、平気…、わっ!」
急に火の中から薪がはじけて飛んだ。吃驚して咄嗟に太一の服をつかむ。
「ご、ごめん…」
「い、いや俺は平気だけど、」
直ぐに服から手を離し、何となく気まずくて目を逸らす。その時、ずず、と栞の耳の中で鈍い音が聞こえた。何だろう、と太一に視線を向けるが、視線は合わない。どうやら彼も少しだけ恥ずかしくなったらしく、顔をそむけていた。
「……」
黙ってその音だけに集中すると、確かに聞こえる。まるで地響きのようにそれは轟く。地面が揺れる、地震だろうか。それは止むことがない。そして栞の耳の中に飛び込んでくるだけでなく、やがて地面を実際に揺らした。
「わっ」
「栞!」
身体が揺れ、ふらつく足がもつれる。倒れ込みそうになる後一歩のところを太一に助けられ、倒れずにすんだ。何よりも思ったより顔が近いことに驚いた。
「ご、ごめんっ」
本日何度目の失態であろうか。そして今日は何度恥ずかしい思いをすればいいのだろうか。慌てて離れようとするが、地響きが止まず足下は不安定なままだ。
「…あのさ。危ないから、このままでいろよ」
「え、あ、…ありが、……」
ありがとう。そう続くはずだった言葉を飲み込み、栞は湖の方を見つめた。
…何か来る、直感的にそう思った。
「あれ…!」
湖が渦を巻きながら、何かが現れる。
太一もアグモンも急いで栞の見つめる方向を見た。
「あっ!」
「なんだあれ!」
「ギシャアア…」
それは湖の中から顔を出し、怒り狂ったように暴れ出した。それによって島が動きだし、地震のように島が揺れる。
デジモンを見た瞬間、また何かが頭の中に入り込んできた。それが何型なのか、どんなタイプなのか、どのような必殺技を出すのか、そして名前は何なのか。ありとあらゆる莫大なデータが栞の頭の中に舞い込んできた。飽和してしまいそうな記憶を必死に頭の中に留まらせようと目を瞑る。1つの名が、栞の喉をつまらせた。
「シードラ、モン、」
「シードラモンだって?!」
「あ、頭の中に名前が浮かんで…」
「ギシャアアアアア!」
彷彿させるのは、昔見た映画の中の怪獣だ。シードラモンの尻尾に先ほどの薪が当たったのだろう、怒りを心頭させ狂ったように咆哮している。太一にしがみつきながら目を見開いて、シードラモンを見た。――怖い、恐怖という恐怖が栞の身体の中に入ってくるのと同時に、ばたばたばた、と人が駆けてくるような音が聞こえ、思い切り振り返った。
「太一!栞!」
「大丈夫ですか!?」
地面を揺るがすほどの力と、大きな叫び声。それだけで子供たちを起こすには十分すぎたらしく、案の定彼らは慌てた様子で路面電車から駆けてきた。
あの真っ白な毛を見紛うわけもなく、その中にイヴモンの姿も混じっているのを栞は見つけた。少しだけ潤んだ瞳、太一にしがみつく震えた手。イヴモンの眉が、きっとつりあがる。
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