011 跳ねる水音
誰もが必死になって、シードラモンに太刀打ちしようとするものの、成熟期のシードラモンに、所詮は成長期の彼らが適うわけがなかった。しかしその事実を知っているのは、誰だけであろうか。
「アグモン!進化だ!」
「さ、さっきからやろうとしているんだけど…出来ないんだよ、太一ィ!」
湖を見つめていた栞は、その声に振り返る。
「何でだよ!?」
「だから僕にも分からないよ!」
それからアグモンは幾度となく気合いを入れるように、肩に力を入れたり、目を瞑ってみたり、力拳を作ってみたりと試したが、結果はどれも同じだった。あの時のように、光が舞い降りてはこない。
「きこえない…」
「聞こえない?何が?」
タケルのまっすぐな視線に、栞は少し戸惑い、それから小さく口を開いた。
「あのときは、…アグモンが進化した時は、鈴の音が、聞こえたの。その前も、おなじ」
「鈴ゥ?誰かが持ってたとかじゃないのか?」
「そういうのじゃなくて、その…頭の、なかで」
まるで自分の持っている機械のように、透明感あふれる音色をする鈴。それはおそらく、誰かが鳴らしたとか、そういうものではないのだろう。昔からある何かの記憶に、栞の脳内が反応している。たとえていうのなら、水が欲しいと思ったときに、差し出される氷水のようなもの。
「…進化には、なにか必要なものがあるのかもしれない、って…」
沢山の人の視線を受けながらだったので、たじたじしながらで、最後の方はほとんど消えかけていた。
「…前の時はサ、きっト強いアグモンの想いガ、すべてヲ超えたんダヨ。アグモンだけジャ処理できなくなった想いハ、栞に届いタ。だから、進化できタ」
「は、はあ?そんなのやってみなきゃわかんないだろ!」
「ちょっと落ち着きなさいよ、太一!」
アグモンを揺さぶって進化させようとする太一だが、心の中では無理だということが分かっているようだった。その瞳に悔しさがにじみ出ていたので、栞は少しだけ居心地が悪そう縮こまった。
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