「うわーっ!」
ざぶんっと勢いのある音が聞こえて、栞は振り返った。しかしそこにはヤマトの姿はない。ゴマモンとタケルが陸地へと上がったが、タケルはすぐに島のギリギリ地点でヤマトの名を叫んだ。タケルの視線の中心地にヤマトはいる。栞はタケルの視線をたどった。
ヤマトはシードラモンに締め上げられ、天高いその場所にいた。
「お兄ちゃん!お兄ちゃぁぁん!」
声の限り、タケルは叫んだ。痛々しい姿が、自分と重なり、ずきりとした。ちょうどタケルと同じくらいの年回りだっただろう。兄が消えたその日から、ずっと泣き叫んだ。そのたびに、一馬が自分を抱きしめてくれた。そこまではできないけれど、せめて。
「栞、さ、ん…?」
「大丈夫、大丈夫だから、」
それは誰に対して言った言葉だろう。もしかしたら自分自身に言い聞かせた言葉かもしれない。握りしめたタケルの小さな手は、震えていた。おそらく、自分の手も情けなく震えていることだろう。
「大丈夫だよ、タケルくん…」
「うっ、うっ…」
「…信じ、よう。石田君のこと、信じよう…?」
2人分の震えは、足したら割れるのかなあ。ぎゅ、と強く握りしめ、心の中で強く願った。
己の微力な思いを、何かのたしにしてください。出来るのならば、誰かを守れるくらいの大きな力を貸して下さい。タケルの手は暖かくて、栞は力を分けてもらえているような気がした。
「まずい、まずいでっせ…!シードラモンは一度掴んだ相手は息絶えるまで締め付けるんや!」
「っお兄ちゃん!!…っパタモン!お願い、お兄ちゃんを助けて!」
「僕の力じゃ、シードラモンには通用しない。でも、ガブモン、お前なら」
パタモンは、ガブモンの方へと顔を向けた。同時にタケルの懇願する眼差しもガブモンは受ける。ガブモンは目を見開き、首を横に振った。
「ム、ムリです!オレにもそんな力は…!」
(守る力が、ほしかった)
「うわあぁああ!!」
(無力な自分は、その術さえ持てなかった)
ガブモンの言葉を遮って、ヤマトの叫び声が子供たちに届いた。苦しい、痛い。そんな感情が一気に伝わってくる。目を瞑りたくなるような暗い感情に、栞は精一杯願いを込めた。その願いは、頂点へと上り詰め、やがて蕾が花咲かす。
「――…守りたい」
「栞、今、なんて」
「守りたい…」
イヴモンの目が、驚いたように見開かれる。
栞はペンダントをしっかりと握りしめながら、イヴモンを見た。その姿は、何だか凛々しくて、イヴモンは目を伏せ、それからほほえんだ。
「…私に、出来るかな?」
―――…しゃらん、しゃららん。
「願いハ届くヨ、必ズ」
―――…しゃらん。
「できる、よね」
鈴の音が、高らかに鳴り響く。その瞬間、栞は視界がクリアになったのを感じた。春の子漏れ日だったり、夏の日差しだったり、秋の木枯らしだったり、冬の厳しい寒さだったり。四季を飾る色とりどりの花々が、栞の前を通り過ぎた。頭の中さえクリアになった気がした。
「うわあああぁっぁあぁああ!!」
―――……しゃらららん!
「ヤマトォ!もうヤマトの吹くハーモニカが聞けないなんて…!!あのやさしい音色が聞けないなんて…!!」
ぽう、と光輝いたのは、希望の光のようだった。暖かい光に、ガブモンは包まれ、光輝いた。栞は、クリアになった視界で、すべてを見つめた。かつて、そうしていたかのように。
ミミは栞の瞳を見て、目をこすった。見間違えであろうから。彼女の灰色の瞳が、少しだけ赤味がかっていたなんて。
17/07/25 訂正
10/08/31 訂正
08/04/24
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