「歩いても歩いても何も見えてこないな…」
「…そうだなあ…。あ、そうだ。ちょっと待ってくれよ」


 何かをひらめいたように、太一は自分の懐をごそごそし始めた。子供たちは興味津々に彼を見る。視線を受けながら懐から小さな単眼鏡を取りだし、単眼鏡を目にあて、左目を閉じた。
 小さなレンズ越しに見える景色は、今まで自分が見ていたものと何ら変わりがなかった。視力は良い方だと思うから、と、諦めて目から離そうとした時、最後の悪あがきで少しだけ目を凝らすと小さな村が見えた。


「ん…?」


 思わず声を出し、離そうとしていた単眼鏡を両手で持ち更に目を凝らす。小さな家がぽつぽつと、それから色鮮やかなものがあちらこちらに見える。太一は小さな希望に胸が思わず高鳴った。


「村だ…」


 ぽつりと、呟いた。ここからでは遠すぎて小さく見えるが、あれは確実に村だ。
 聞き取れなかった子供たちが(いや聞こえていたかもしれないが、もう一度聞きたかったのかもしれない)、きょとんと自分を見ているのに気づいて、思わずにやにやする顔を押さえきれず、笑顔で振り返った。


「村だ!!」
「え…!?」
「なんだって!?村!?…ほらな!やっぱり人間がいるんだよ!」


 丈も自分の言葉を証明できる、と喜び、ほっとした。他の子供たちは信じられず、けれど信じるしかなくて、思わず笑顔になった。


「何にせよ、行ってみる価値はありそうですね」
「そうね…。行ってみましょう」
「よし!あの村へ行こう!」

「「おう!」」


 人間がいると信じて向かった先。待ちかまえているものは人間以外はない。
 期待を胸に膨らませ、そして先ほどよりもずっと軽い足取りで子供たちは歩き出したのだった。


17/07/25 訂正
10/09/14 訂正

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